東京民医連「経済的事由等による手遅れ死亡事例調査(2018年1月~12月)の報告と提言」
2019年4月10日 東京民主医療機関連合会(東京民医連)
全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)が実施している「経済的事由等による手遅れ死亡事例調査(2018年1月~12月)」で東京民医連の加盟事業所から13事例の報告を受けました。私たちは、この13事例(全国調査時の12事例に1事例を加えています)を集団的に検討した結果、「正規の医療保険証を持っていても手遅れ死亡になっていること」「男性、無職・低所得、独居の方にリスクが高い」「東京・首都圏の住居の問題」などが明らかになりました。「手遅れ死亡」を生む負の連鎖があり、これを防ぐための提言を行います。
【調査方法】全日本民主医療機関のうち東京民主医療機関加盟事業所(東京、千葉の一部、埼玉の一部)の病院15、診療所114等の患者、利用者で、
①国保料(税)、その他保険料滞納などにより、無保険もしくは資格証明書、短期保険証発行により病状が悪化し死亡に至ったと考えられる事例
②正規保険証を保持しながらも、経済的事由により受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例・調査方法 各事業所担当者から調査票提出
※全国の調査報告は全日本民医連のホームページに掲載されています。
1.「手遅れ死亡事例」の特徴
全日本民医連では、全国77事例から5つの特徴を明らかにしています。①地域での孤立、②医療や介護の保険料(税)や負担金の大きさ、③生活保護の適用の狭さ、④行政の関わり、制度の申請主義の限界、⑤複合的な要因、特に障害者を抱えた家庭等。これに加えて、東京・首都圏の特徴として⑥住居の問題(高家賃、高齢者等の場合の転居の困難)があげられます。
<特徴的な事例>
○住居問題① 年金のみの生活で身寄りなく受診が遅れた90代男性(食道がん)
独居、年金生活。借家家賃の9万円は収入の75%を占める(高齢独居で転居先を探すことはたいへん難しい)。2018年×月、食事を摂っていない様子があり、大家さんからの連絡で地域包括支援センターが自宅を訪問。かかりつけ医に相談し熱中症・脱水疑いで入院が必要との判断を受けた。同月末、D病院に入院し進行性下部食道がんが見つかり、緩和治療を行うことになったが病状が進行し3か月後に死亡。
○住居問題② 経済的理由から受診が遅れ死亡に至った60代男性(胃がん)
60代の男性(本人)は、90代の母親と二人暮らしで母親の介護を行っていた。死亡4か月前ごろから顕著にやせてきた。母親の訪問診療の際に、医師や看護師が気づき何度も受診を勧めたが、本人は受け入れず受診は3か月後となり、胃カメラ等で進行胃がんが見つかった。K医療センターの受診当日、付添いのために自宅を訪れた家族が、風呂場で死亡している男性(本人)を見つけた。
賃貸マンションで生活しており生活が困窮しているようにはとても見えなかった。後でわかったことであるが、家賃が月15万8千円、介護費用が月4万円。一方で、収入は本人と母親の年金を合わせて約20万円。貯蓄も底をつきつつあった。
○男性、無職、独居 生活困窮で受診できず救急に運ばれた時は末期がんの60代男性(膵臓がん)
1か月の年金は4万円。そこからから分譲マンションの管理費2万円、国民保険料や携帯電話代などを支出し、他の生活費は前年に亡くなった母親の預金を切り崩し暮らしていた。2017年秋ごろから心窩部痛が出現。本人から「もう生活できない」「限界だ」と××市に電話で生活保護の相談をしたが「生保より受診が先だ」と言われた。本人は「お金がないのに病院に行けない。順番が逆だ。」と思い込み、生活保護申請にも受診にも至らなかった。2018年4月に痛みが増して受診し入院。膵臓がんの末期で入院1か月後に死亡。
2.経済的事由による手遅れ死亡や孤独死を防ぐために、以下の提言を行います。
提言1.SOSが発信できない人々に対する行政と地域が協力した見守り活動をすみずみに
高齢化、一人暮らし・高齢者夫婦世帯の増大する中、SOSが発信できず、複合的な問題を抱えている方々が増加するものと思われます。一方、医療や介護・福祉の諸制度は原則として申請主義であり、こうした方々の援助のあり方に限界が生じています。
※港区(ふれあい相談員)、文京区(地域福祉コーディネーター)等の取り組みがあります。これらを地域網羅型の取り組みに発展させる必要があります。
提言2.手遅れ事例を無くすために特定健診の受診を様々な方法ですすめる
国保料(税)を滞納していても国保特定健診に制限はありません。このことを、保険料を滞納している方にお知らせし、特定健診の受診をすすめます。同時に病気が見つかり治療を行う場合に保険料や一部負担金で困っていたらすぐ相談を行えることを周知します。医療機関等との連携も大切になります。
提言3:孤独死に至る社会的要因の行政による調査を
私たちが把握できている手遅れ死亡事例は「氷山の一角」です。東京都の監察医務院からも膨大な孤独死(2017年の23区一人暮らしの自宅死4777人)が報告されており、この中には多くの手遅れ死亡事例が存在していると推測されます。
孤独死を防ぐための社会的対策を立てるためにも、経済的要因も含め孤独死に至った要因も含め行政による調査が必要です。
※民医連で把握した手遅れ死亡事例に、「がん」が多い理由
私たちが、経済等の状況まで把握できている事例は、患者さんとの初めての接触後、状況を把握し治療や生活を含めた援助などの対応に、少なくとも数か月程度の期間を確保できた場合です。
病気が、がんの場合には、こうした条件を満たすことが多くなります。一方、受診直後に亡くなってしまう疾患(脳血管疾患や心疾患等)の場合には、患者さんの生活・経済状況の基礎情報がなく把握するための時間もありません。自宅死亡で警察等から連絡・問い合わせだった場合の把握はいっそう困難です。
提言4.国民健康保険(国保)加入者への必要な対策を
正規保険証を持っていても手遅れ死亡につながっている多くは国保加入者です。国保加入者は、非正規労働者、無職や年金生活者が加入し、その多くが低所得であり、そこに介護や医療が必要になった場合に生活が一気に苦しくなります。受診抑制につながる高い国保料(税)の軽減、重い窓口負担の軽減を図り、国保法44条(窓口負担軽減)、同77条(保険料軽減)の適応拡大も求められます。
※東京民医連で行った2019年統一地方選議員選挙予定候補者への国保政策アンケートの結果は、東京民医連ホームページに掲載中です。
・東京民医連手遅れ死亡事例調査記者会見資料(PDF331KB)
・無料低額事業実施事業所一覧 2019年4月(医療)(PDF82KB)
・無料低額事業実施事業所一覧 2019年4月(老健)(PDF64KB)