言語・文化の違いをのり越えて
言語・文化の違いをのり越えて
中国人のМさん(80代女性)は、転倒による骨折で入院し、術後深部静脈血栓症を発症しました。退院後、自宅での歩行時や起居動作開始時に疼痛があり、訪問診療と訪問看護を開始しました。
日本での生活は長くても、日本語はほぼ話せず、娘さんが通訳をしていました。彼女が不在の時は会話が難しく、人種的な差別を感じて疑心暗鬼になることがありました。
例えば診療所での待ち時間が長いと「日本人が優先されているのではないか。中国人だから遅く呼ばれるのではないか」等と訴えることがありました。それでもМさんと意思疎通を図ることに努めました。
ある日、痛み止めのロキソニンとジェネリックのロキソプロフェンのうち、ジェネリックを指して「これ、嘘つき薬!」と大声で興奮し始めました。「中国人だからこんなおかしな薬を処方している!」と繰り返すのです。同じ成分、同じ効能だと説明しても興奮は収まらず、順序立てて説明しても納得してもらえませんでした。「わざと効かない薬を出している」と理解しているようでした。
しかし日々の訪問で、中国語で中国の食べ物や文化などを話してくれることが増えていきました。自分の体調についても、どこがどう痛むか、痛み止めの減量や睡眠時間も細かく話すようになりました。そして薬を変更し痛みのコントロールができました。
人との関わりというのは一朝一夕にはいかず、言語・文化の違いがあれば、困難を極めることもあります。今回は相手を理解しようと歩み寄る努力をして信頼関係を築きました。そしてこれからも日本で安心して暮らしていけるよう、関わりを心がけていきたいと思います。
(さいと訪問看護ステーション・2024年10月号掲載)