「テントウムシになりたい」と言い亡くなったA氏のこと
「テントウムシになりたい」と言い亡くなったA氏のこと
健和会の診療所師長会議では、毎月気になる患者について事例検討を行っています。「看護の基本になるもの」に照らし、学んだ検討例を紹介します。
A氏(80歳・独居)は左変形性膝関節症術後に感染を併発していたが受診を中断。地域包括支援センターの連絡から訪問診療が導入される。左膝に瘻孔があり、多量の排膿がある状態。創部にティッシュを当てるなど、処置は自ら行っており、痛みは耐えていた様子。体温は38・5℃あったが、普段どおり生活していた。検査結果から入院をすすめたが本人は拒否。再度訪問した際にも「人間にはそれぞれ寿命がある。今度生まれ変わるときにはテントウムシになりたい」と言って入院することを拒んだ。処方された抗生剤の内服で経過をみることにした。
3日後、状態確認のため訪問すると、内服は出来ており解熱もしていた。2週間後、当初の症状は軽快したが、食欲低下で外出できず、在宅療養は厳しくなった。本人の希望でショートステイを利用したが、水分・食事がとれず往診。尿閉にて膀胱留置カテーテルを挿入した。施設では同管理ができない、と本人へ説明。
ようやく入院を承諾したが、「人生に悔いはない」「思い残すことはない」と、積極的な治療は望まずひと月後に亡くなった。「テントウムシになりたい」とはどのような意味があるのか、これからの訪問診療で真意を聞こうと思っていたのに残念だ。今回の事例検討の中では「本来なら入院適応だが、本人の意志・価値観を尊重した。患者の要求を出発点にしており、気持ちに寄り添えたのではないか」「本当に人生に悔いがなかったのか」と意見が出された。
毎月の事例検討は「患者の言葉の裏には何があるのか」「患者の本当の気持ちは」「今に至るまでにどんなことがあったのか」「本人と家族の関係はどうなっているか」等、大切な視点を学ぶ機会になっており、それぞれが日々の看護につなげています。
(まちかどひろばクリニック・2024年8月号掲載)