「その人らしく生きる」を考えさせられた退院支援
「その人らしく生きる」を考えさせられた退院支援
患者は脳梗塞後のリハビリ目的で入院となった80代女性。急性期治療中に尿路感染を併発し、リハビリテーション介入が滞り廃用をきたしていた。本人は「家に帰ることができれば嬉しいけれど不安がある。家族に迷惑をかけない形でお願いしたい」と話し、家族は「正直なところ、この介護量だと家でずっと看ていけるか自信がない。でも半年ほど前に夫を亡くし、来年は私の新盆だからと言っていた。そうなる前に会いたい人ややりたいことが色々あるようだから、本人の思うようにさせてあげたい」と語った。
入院時は血圧も低く離床が進まず、寝たきりの状態であった。膀胱留置カテーテルも抜去困難で、仙骨部に褥瘡があり、ベースには糖尿病があった。介護度や医療処置の多さからも施設退院を視野に入れる事例であったが、患者・家族ともに自宅で過ごすことを望んでおり、我々もそれを支援する方針となった。
血糖測定とインスリン注射は、比較的スムーズに手技を再獲得することができた。しかし複視や巧緻障害があり、朝方や体調不良時は手技がおぼつかないため、娘さんに補ってもらうよう支援した。内服は本人の状態に合わせてカセット管理とした。散剤は扱いに難渋したため、主治医・薬剤師へ相談し中止となった。褥瘡は入院中に治癒できた。
おむつ交換・陰部洗浄・カテーテル管理は娘さんへ指導を行い、在宅チームにもフォローを依頼した。家族が困ったときや辛いときは在宅チームにいつでも相談できることを説明し、心理的負担の軽減を図った。
施設入所よりもリスクや困難、それに伴う精神的負担が予想される自宅退院を患者・家族は選択し、その無謀に思えたゴールを達成した。会いたい人に会い、やりたいことをやれる自宅退院を支援できたことは、本人にとっての「生きる」ことへの助力になったのではないかと思う。
(柳原リハビリテーション病院・2022年12月号掲載)