夫の覚悟に背中をおされて
夫の覚悟に背中をおされて
当事業所は看護師5名と小規規模ですが、24時間体制で日々訪問をしています。少し前の話になりますが、認知症で寝たきりのAさんは訪問開始して10年近く経過している長いお付き合い。発する言葉は「バカ」「帰れ」だけど、なぜかとても愛らしい。朝からの飲酒を止められない夫が介護をしている。
夫は介護の注意点などを説明してもなかなか頭に入らず同じことを繰り返し聞いてくる。妻への愛情はとても深いのに、時おりケアが疎かとなり、周りをヒヤヒヤさせることも…。そのクセ心配性で体調に関して「大丈夫かな」とちょくちょく連絡をしてくるちょっと困った方でもあるけれど、楽しく訪問を続けていた。
そんなAさんも閉眼していることが多くなり、眠剤や精神科の服薬を中止しても改善がなく精査目的で入院。結果、呼吸器系の状態が良くなく酸素吸入、非侵襲的人工呼吸器の導入となり、尿バルンカテーテル管理となった。様々な医療的ケアが必要な状況では、「もう在宅は…」と思っていたら、ケアマネより「医師は無理じゃないかと言っているけど、夫が家で看たいと言っている。看取る覚悟もある、とのこと」。即、「帰っておいでよ!」と答える。
訪問看護だけでなく、訪問介護も増やして体制を再構築し、1か月ほどの入院生活から帰宅。ケアマネやヘルパー、在宅主治医と家で出迎える。はじめは夫を中心に在宅療養を再スタートするが、すぐに看護師の娘も仕事を休み、泊まり介護に加わる。
たまに親子の間で意見の相違は出るけれど、朝と晩と交代で介護を続ける。「今日ね、目が開いたよ」「良くなっているのかな?」「大丈夫かな」と夫は日々一喜一憂の反応。回復は難しいけれど、本人が望む家で大好きな夫と娘と安心して過ごせていることを伝えながら別れの準備も進めていく。退院して2週間ほど家で過ごし、夫と娘に見守られ永い眠りにつく。
今も時々顔を見せてくれる夫。いつも「飲み過ぎないでね」と声をかけつつも、彼が元気でいることにほっとしている。
(のがわ訪問看護ステーション・2022年10月号掲載)