SDHの視点で聞き取りを反映
SDHの視点で聞き取りを反映
糖尿病で定期通院していたAさん60代男性は、感染拡大による売り上げの減少で勤めていたフランチャイズ経営の飲食店が閉店し、収入が途絶えていました。国民健康保険3割負担で医療費が払えず、1年以上受診を中断していました。1か月前から右足第一指の痛みがあり、手持ちの坐薬で我慢していましたが、痛みは悪化するばかりで、救急外来受診時には糖尿病壊疽と蜂窩織炎が手遅れの状態でした。
Aさんは90代の母親と2人暮らしで、買い物や母親の受診の送迎など、生活全般を車に頼る生活でした。入院したことで移動手段を断たれた母親の心配をたびたびされていたため、退院前の環境調整も兼ねてAさん宅へ訪問に伺いました。
日常生活に困っていると思われた母親は、移動スーパーや地域住民の支え合い移送で通院されていました。「しっかり治してもらい、また一緒に暮らしたいですよ。息子は可愛いから」と話されました。
その様子をAさんへ伝えると安心され「早く退院してまた仕事や運転がしたいです。母親に迷惑はかけられない。これからは病院にもしっかり通い、頑張ります」と目を潤ませて話してくれました。入院治療中に右下肢を切断、義足を作成後に3カ月のリハビリを終えて退院されました。
退院後のAさんは食事に気をつけ定期受診にも通い、義足での運動が日課になっています。希望だった車の運転も補助装置を取り付け、以前と同じような生活を送れるようになっています。
SDHの視点での聞き取りを反映させ、自宅に訪問することでAさん親子の思いの架け橋ができ、Aさんの生活背景をとらえた看護ができたと思います。
2年近くにも及ぶコロナ禍では、命の選別を余儀なくされる事案もあり、Aさんをはじめとする多くの生活困窮者が救急外来に搬送されます。Aさんのように生活の再建に向けて歩き出せるような看護をしていきたいと思います。
(東葛病院・2021年12月号掲載)