東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

最期の心の準備を支えること

 悪性リンパ腫で在宅療養中のI氏(76歳)は食べることが大好きで、奥さんの運転で買い物に行くことと、自慢の庭に腰かけ庭木を眺めるのが日課でした。病院での治療が終わり、退院後数か月経過した頃、悪性リンパ腫が再発し、余命1か月と宣告されました。
 訪問すると「いいのが撮れた」と自分の遺影の写真を見せてくれました。「本当は元の生活に戻っているはずだった」「庭の梅や桜が見たかった」「親父は77歳で亡くなった。自分も誕生日を迎えたい」等の言葉が聞かれました。諦め、覚悟、ささやかな希望の言葉でした。
 I氏を支える妻には、介護指導をしながら傾聴の時間を多く持ちました。その都度状況を説明し、対応方法を伝えました。苦痛を早期に緩和するため、往診医と頻繁に連絡を取るなど、医療処置だけではない、傾聴、日々のアセスメントや多職種とのマネジメントが看護師の大きな役割だと感じます。
 在宅での看取りで私たちにできることは、ご家族の不安な気持ちに寄り添い、変化のプロセス、最期の兆候についてお伝えし、心の準備ができるように支えていくことだと考えています。最期の時間を大切に過ごして欲しいと願っています。妻には「特別なことは何もありません。痛む部分をさすってあげて下さい。耳は聴こえています。想い出話をしてもいい、そんな時間を持ってもらいたい」とお伝えしました。
 最期の時の2週間前、昏睡状態となる前にご本人が「メロンが食べたい。カットのじゃなくて丸ごとだ」と訴えられました。ご家族は大急ぎでメロンを買いに走り、それを満足そうに口にしたそうです。I氏らしいエピソードだと思います。
 「私は幸せだったんだなあ」家族に囲まれた誕生日写真を眺めて、そう言ったI氏。
 満足いく写真を撮り、自慢の庭を眺め、食べたいものを食べ、ご家族と一緒に77歳を迎え、大好きな往診医に看取られて旅立たれました。ステキだなあと思います。
 I氏とご家族の大切な時間に関わらせてもらえたことに感謝しています。
(緑が丘訪問看護ステーション・2021年10月号掲載)