ご本人やご家族に寄り添って
ご本人やご家族に寄り添って
診療所では、毎日出会いと気づき、ドキドキがあります。
A氏は82歳の女性。いつも一人でシルバーカーを押しながら通院していました。何となくふらつきながら歩いていることに気づき、ご家族への連絡先を聞くと、頑なに「娘に叱られる、絶対言わないで!」といいます。
暫くしてやっと本人より「一人で歯科を受診したいが行けない」と話がありました。「これはチャンス!」と思い、介護保険申請を勧め、娘さんにもパンフを渡してもらいました。
しかし、高齢者の見守り訪問も開始するなか、A氏は徐々に痩せてきました。点滴終了時、A氏に了解を得て、ご自宅まで車椅子で送った際、娘さんに会うことができました。娘さんは、受診されていることを知りませんでした。
これまでの様子と、介護保険などの説明をすると、「認定結果が出ないうちは費用が不安でサービスを利用できない。経済的に厳しく支援できる余裕がない」と、険しい表情をされました。「当院は無料低額診療事業を行っており、A氏は、医療費減免の対象になる」と説明すると、「本人の年金で済むのなら」と返事があり、手続きに入りました。
A氏は、ご主人が他界するまで自宅1階でプレス工業を営み、年金は、実質月4万円程度。娘さんご夫婦と同居していますが、食事は別生計。単独世帯で無低診を申請し、診療費10割免除にて訪問診療を開始。要介護1の判定がでたため、保険利用やA氏の希望であった区の無料歯科受診事業の検討を始めました。
稀薄な家族関係と思っていましたが、娘さんはA氏を入浴介助の際、骨折させた経験から、介護に消極的になっていたこと、甘やかすと動かなくなるのではと考えていたことを話され、次第にこれまでのA氏との関係や困りごとなどの話もするようになりました。
「物があふれている家の大掃除をしたい」との相談もあり、病院と連携し精査入院に繋げました。入院中リハビリも進み、家の片づけも終えて、福祉用具も導入し、環境を整えることができ、無事退院しました。退院後は、娘さんが車椅子を押し、受診に通っています。
看護師の気づきから、ご本人や家族に寄り添った介入ができたこと、無低診で経済的な負担が軽減でき、病気の悪化や療養が中断しなかったこと、そしてなにより他事業所との密な連携で療養環境を改善できたことが励みになりました。
これからも声掛けを重視し、「なんか変!いつもと違う?」、小さな変化の気づきを大切に、支援に繋げられればと思います。
(すみだ共立診療所・2021年8月号掲載)