身体拘束解除への道
身体拘束解除への道
当院では、昨年度から「身体拘束に頼らない看護」を目標に掲げ、身体拘束解除のカンファレンスを開始しています。今回、実際に体幹抑制から抑制解除へ取り組めた看護実践を紹介します。
80代女性でアルツハイマー型認知症のAさん。熱中症と誤嚥性肺炎で入院治療後、家族の希望もあり、胃瘻造設目的で当院へ転院。経鼻胃管の自己抜去繰り返し、前医同様に当院でも入院時からミトンを開始しました。それでもミトンを噛んで外し、身体を捻ることで巧みに経鼻胃管を抜いてしまうため、上肢抑制に体幹抑制も開始することになってしまいました。
自己抜去予防というリスク管理は大切ですが、身体拘束は「Aさんの人権を無視しているのではないか」というジレンマを感じながら看護をするなかで、自己抜去は直接生命の危機に直面しないので恐れることなく、看護ケアで身体拘束を解除できないかと、カンファレンスで話し合う日日が始まりました。胃瘻造設を契機に、体幹抑制を外し抑制着の着用から離床を進めることで、車椅子乗車時はミトンを外すことができました。
この頃より、Aさんから「かつらがない!かばんがない!」などの発言が聞かれ、身だしなみを気にする様子が見られ始めます。自宅から、普段使用していた化粧品やかつらを持参してもらうと、鏡に向かって集中して化粧をする姿が見られました。この姿から、抑制着についても検討。上下パジャマ、腹帯に変更したところ、胃瘻チューブを自己抜去されてしまいました。そのため、首周りの閉まった肌着、スカーフ、腹帯、さらに上衣をズボンに入れるなど工夫しました。
また、経管栄養のセットを見えないように配置。投与は看護師の見守りが多い時間に設定変更。その結果、抑制は時折のミトン着用程度まで減らすことができ、胃瘻チューブも抜かれることはありませんでした。
私たちが実践した看護は、Aさんの安全を守りながら、Aさん自身の人権も大切にするものだと思います。本人の言葉や行動の意味することを考えたり、話合ったりする事が日日の看護のヒントになります。Aさんは身体拘束の解除で、よりAさんらしく過ごすようになりました。
私たちは今後も「そんなことできない!」とすぐにあきらめるのではなく、ワンチームとなり抑制に頼らない看護と向き合っていきます。(立川相互病院・2020年2月号掲載)