夫婦のおもいやりをつないだ看護
夫婦のおもいやりをつないだ看護
Aさん80歳、男性。元もと呼吸不全あり、今回は肝臓がんの診断でした。癌の進行が早く、主治医より予後1~2か月と伝えられました。
「前から家で死にたいって言ってたんです。私たち頑張るから家に帰りましょう。家族みんなお父さんに感謝しているんです。」と奥様。本人は「畳の上で死にたいと言ったのを妻が覚えてくれていて嬉しかった」という発言は聞かれるも、ご本人は全身的な苦しさや不安から入院していたいという気持ちが強く、夫婦間でのすれ違いが生じていました。
いつでも自宅に帰れるようにと奥様、娘様へ介護指導を実施。退院ではなく一度外出を計画しましたが、本人の不安が強く中止となりました。看護師は奥様、本人双方の気持ちを傾聴しチーム内での話合いを繰り返しました。
病状進行のスピードは早く、外出計画から1週間ほどで麻薬や鎮静の検討が必要な段階へ。妻はそれでも在宅生活の希望を持ち続けていました。全身状態悪化、意識レベル低下あり、最期は奥様をはじめご家族が見守る中でのお看取りとなりました。
当初ご本人が望んでいた自宅退院は叶わなかったものの、不安や「苦しまずに亡くなれたと思う。家に帰っても何もできないもの、帰らなくてよかったです」と奥様より。ご家族とともにエンゼルケアを行い、お見送りとなりました。
ご本人も元気な時は家で最期をという気持ちでしたが、病状進行により在宅での看取りにも不安が強く、病院で良いと本人の気持ちが変わっていました。しかし妻は本人の当初の願いを叶えてあげたい、私たちに遠慮しているのではと、気持ちがなかなか通じ合わない状況でした。
急激に進行する病状に対し、最期の時間の過ごし方について家族・本人の気持ちの変化があり、どう寄り添っていくか悩んだ事例でした。お互いの気持ちをどのように尊重するか繰り返し、気持ちを傾聴したこともあり、病院での最期について前向きにとらえる言葉が聞かれたのではと思います。
(大田病院・2019年7月号掲載)