東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

“その人らしく”を支援したい

 1年前、精神疾患の若い患者さんの訪問依頼がきました。母親への暴力で措置入院となり、退院を期に訪問看護が導入となりました。両親はともに学校の教員です。
 初回訪問の相談の電話で、母親は「訪問のとき、自転車は自宅の前ではなく離れたところに置いてほしい」と希望されました。看護師が訪問していることを近所に知られたくない思いから出た言葉でした。
 退院後の本人の生活について母親は、駅前までコーヒーを飲みに出かけることを「徘徊」と表現し、独語を話しながら歩く姿を見て「近所に迷惑をかけている」と思っているようでした。
 2週に1回のペースで訪問を続けて1年がたちました。訪問を拒否することはありませんが、「そこの人(母親のこと)と話してください」と愛想笑いを浮かべながら数分で自室に戻ってしまい、「まだまだだな」と思います。でも一方では、家族が看護師と話すことで少し心が軽くなっている様子が見られ、「話を聴き一緒に考える人になることができているかな」とも思います。
 日本は、永く精神疾患がある患者を地域から隔離し、社会の目から遠ざけてきました。理由は様ざまあったと思いますが、長い時間をかけて精神障害者は危険であり、周囲に迷惑をかける存在であると刷り込まれてきていたのだと思います。
 近年、人権擁護の観点からWHOや国連から勧告を受け、法が変わり、長期入院させず、治療しながら地域で生活するように誘導されてきました。しかし、受け止める側である地域全体への働きかけはほとんどなく、意識がそう簡単に変わるわけはないと思います。
 愛する家族を受け止めたい、けれど自分たちだけでどうすればいいのだろう…と悩み苦しんでいる家族がいます。地域に関わる医療者として、どんな状況であれ今を正しく理解し、精神疾患の治療を受けながらでもその人がその人らしく、当たり前に生活できる支援者でありたいと思います。まずは、自分たちができることから!
(上高田訪問看護ステーション・2019年3月号掲載)