診療所の役割を考える事例
診療所の役割を考える事例
私たちが働く芝診療所の外来では、内視鏡、往診、訪問看護などを行っています。
私たちが関わらせていただいているAさんについてご紹介させていただきます。Aさんは70代女性でお一人暮らしをされています。心疾患、高血圧などで当院外来に2017年10月から通院されていました。以前は飲食店を経営されており、明るい性格でいつも楽しそうにお話されています。通院開始当初からの言動や悪臭がすることなどから認知機能の低下が認められ、細かい生活状況をうかがう生活保護のケースワーカーさんや地域包括支援センターのスタッフと連携を取っていました。
その後、大腸癌が疑われ大腸ファイバーを行うため他院に入院しました。当日、一人では入院できないため、当院からスタッフが付き添いました。しかし、入院に抵抗があり検査できないまま、退院となり外来で関わっていました。大腸から出血のため貧血となりみるみる顔が青白くなっていましたが、「ここに来ると安心」と通っていました。
介護保険の申請も行い、当院ケアマネジャーや訪問看護などが関わり、初回の訪問看護でご自宅にうかがうと、中にいる様子でしたが出てきませんでした。管理人の方にお願いし、合鍵で入ろうと試みましたが、ご本人様が鍵を変えてしまっていました。連絡によりかけつけた医師も加わり、部屋の前で2時間声を掛け続けました。やっと鍵の業者を呼び、鍵を開けようとしたそのとき、本人が外にいるスタッフに気づき鍵を開けました。瀕死の状態でした。すぐに入院となり、ストマ造設し一命を取り留めました。その後、往診管理に変わりましたが、ストマのパウチが外れたり、「おしりが痛い、便秘なの」と外来に来ています。
訪問看護で、大家さんとお話し、ご自宅ではお風呂が使用できないことを伝えると、空いている隣のお部屋のお風呂を貸していただけることになりました。認知症の患者さんを見捨てず、温かく関わることで周囲の方の協力もあり、本人が愛着のあるご自宅で自由に生活できているのかなと思います。
今後お一人暮らしの高齢の方が増加する中、丁寧な問診と他の職種や住民との連携など、診療所の役割について考えさせられる事例でした。
(芝診療所・2018年8月号掲載)