認知症・高血糖のA氏の独居支援
認知症・高血糖のA氏の独居支援
長期高血糖状態・急激に認知機能低下したA氏(67歳)が、3月2日当診療所に紹介来院された時には、糖尿病ケトアシドーシスの危険が目前にせまっていた(HbA1c14.2、尿ケトン体3+)。
A氏は、高卒後鉄道関係の夜勤ありの仕事。労働組合活動もしていた。約10年前、A氏と同居していた母が当診療所に受診しており、母のカルテを調査し家族の生活史を聴取。母は変形性膝・股関節症で徐じょにADL低下、室内で転倒を繰り返し、頭部外傷や骨折頻回となり介護が厳しくなる。
A氏は多忙な仕事で介護に専念できず、肉体的・心理的にも精一杯で糖尿病の管理と向き合う余裕はなかったであろう。母の介護問題が深刻化すると共に血糖コントロール悪化(2016年1月HbA1c11%)。前医でインスリン導入を勧められるが拒否、受診中断。その後、退職や母との死別を機に認知機能が急激に低下。
2018年1月、妹さんが物忘れを気にして前医にA氏と受診、脳血管性認知症と診断され近医の当診療所へ紹介となった。健康の社会的決定要因(SDH)の視点を持ち、生活支援するサポート体制づくりを看護目標に関わり始めた。
寡黙。内服・金銭管理できず、独居の家はゴミ屋敷化、在宅で過ごすために必要なソーシャルサポート体制は無く、妹さんは困り果てていた。入院しインスリン導入することが理想的だが、A氏は環境変化を避け家でできることをするのを望まれた。問題となる服薬は、薬局へ通いその場で内服することにしたが忘れてしまう。
要介護1認定、ケアマネジャーと問題点を共有し、支援を分担。服薬はヘルパー管理、週1回の通院にてトルリシティー皮下注開始。妹さん・ケアマネジャーと自宅訪問、玄関からゴミと物が散乱し足の踏み場なし。
A氏はHDR-S12点(見当識障害・遅延再生障害あり、計算〇)で点数は低いが障害されている所は限局、洗濯・入浴・ゴミの分別はできる。ゴミ収集をヘルパーの誘導で行い、家の中は片づく。A氏にも変化がみられ、笑顔がでて他患者と会話するなど、生活環境の改善により精神的な健康も取り戻す(5月HbA1c9%)。
近年、糖尿病・認知症・独居ケースが増え、生活問題が解決できず支援に悩むことがある。今回のA氏との関わりから、SDHの視点から状況を把握し、強化因子を生かして支援することの重要性を実感した。
(三ツ木診療所・2018年7月号掲載)