東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

ひとこまひとこまに心を寄せて

 私たち在宅室の今年度の職場方針は、「日々の暮らしの中のひとこまひとこまに携わり、応援することに心を寄せられる在宅室であり続ける」です。
 最近、往診管理が始まったAさんを紹介します。Aさんは70代、独居。外来で膵がん末期、癌性腹膜炎と診断され、標準治療をしなければ余命3から6ヶ月と告知されました。
 Aさんは標準治療を望まず、残された余命を好きな旅行をして過ごしたい、と決断されました。ご家族もAさんの意思を優先しました。
 余命宣告を受けてから、書類や写真の整理、沖縄・台湾・オーストラリアへ旅行しました。タイは医師から許可されず止めたそうです。
 告知5ヵ月後、終末期の緩和医療目的でB病院緩和病棟に入院しましたが、ADLが保たれており、予後に余裕があると判断されていったん退院。時どきの腹腔穿刺を在宅で継続し、ご本人の意思による再入院も視野に入れた訪問診療が、開始となりました。
 Aさんは、面談の際にこんなことを言っていました。「病状説明で予後は3から6ヶ月。もう今は余力の段階なんです。もう一度故郷の新潟に帰りたい…。妻が早く来いって誘いに来るから振り払ってる。妻は誕生日の3日前に死んだ。自分もそうなるんじゃないかって」訪問診療が始まり、腹水を抜いて新潟に帰省しました。帰宅後腹満が強くなりましたが、おいしい物を食べ、楽しんできたようでした。
 そして、Aさんの誕生日3日前のXデー。いつもとは違う腹痛で、いつもより多く鎮痛剤を飲んだと連絡が入り、私たち在宅室の看護師もXデーであることを十分に分かっていたので看に行きました。
 痛みは落ち着き、翌日Xデーを乗り越えたことを共に喜びました。いよいよ誕生日を迎え、ご家族皆でお祝いができたと聞きました。私たちも、これからお誕生日往診にケーキを持って伺います。
 Aさんのそう永くはない、残された人生のひとこまひとこまに心を馳せて、私たち在宅室看護師はかかわっています。
(健生会ふれあい相互病院・2018年6月号掲載)