“自宅で過ごしたい”の希望に応えて
“自宅で過ごしたい”の希望に応えて
「自宅へ戻って過ごしたい」とAさんが当院の往診を希望されたのは5月末、65歳で子宮頸がん末期の状態でした。今まで仕事を持ちながら家のことはすべて自分でやってきました。これから自宅療養を送るには、人の手を借りなければならず、なかでも仕事が大変忙しいご主人の理解と協力が必要でした。
自宅に戻ったAさんは、薬の副作用の倦怠感や吐き気に悩まされていましたが、調子のいい時はソファーに腰かけ穏やかに過ごすことができました。食事の用意や洗濯など家事をするご主人のことを、「この人、今までこんな事やったことないのよ」などと嬉しそうにされていました。最期まで自宅でという強い希望はなく、ご主人はホスピス入所の手続きもすすめており、Aさんも同意していました。
Aさんはいつも遠慮がちで、声をかけないと我慢して表現されない方だったので、何かお手伝い出来ることがないか尋ねました。Aさんは孫が生き甲斐で、女の子には手作りの人形をあげていたそうです。「最近生まれた孫にも人形をあげたいけれど作りかけで…仕上げるには体力がもたなくて」と。すでに体力低下が著しく、また最期までは時間もありませんでした。慣れない人形作りをスタッフ総出で手掛け、経過を伝えながら四日後に完成しました。
Aさんの意識が薄れる中、人形が完成したことをお伝えすると微かにわかった様子で、ご主人からお孫さんに手渡されました。Aさんはその日、ご家族に見守られながら自宅より旅立たれました。七月上旬のことでした。
4年前にある患者さんからの「最期まで診られる診療所になってほしい」という言葉をきっかけに、当診療所では年に2、3人の看取りをさせていただくことができるようになりました。24時間在宅支援診療所ではないため、患者さんの要望に十分に応えられてはいませんが、可能な限り知恵を絞って対応させていただいています。
人生の最期を迎える時、「可能であれば住み慣れた我が家で過ごしたい」と希望されるご本人やご家族の気持ちに寄り添いながら、有意義に過ごすためのお手伝いを目指しています。
(清瀬診療所・2018年2月号掲載)