心身のバランスを崩した高齢透析患者と、その家族との関わりを通して
心身のバランスを崩した高齢透析患者と、その家族との関わりを通して
維持透析患者の高齢化は急速に進んでおり、高齢透析患者は基礎疾患に加え、複数の疾患と心身の衰えを抱えながらの通院透析となることが多い。そうした患者を支える家族の負担の重さは想像に難くない。
透析患者のA氏は、自営業を営み、町内会長を務め、妻の介護も担っていた。しかし2年前、妻の他界後、住み慣れた地域を離れ娘宅に引っ越した。そのため、透析は当院外来に転院となる。娘は小さい子どもと要介護者である義母と同居しており、その上、A氏の通院の送迎も担うこととなったが、親子の関係は傍目にも仲良く良好であった。
昨年、冬からA氏の消化器疾患の精査のため、他院通院が頻回となり、ストレスのせいか持病の悪化がみられ、精神的にも不安定となることがあった。温厚で自制心のあったA氏であったが、透析室での順番待ちに我慢できなくなり、一人で透析室を抜け出し、行方不明となるほどであった。無事、保護されるが、その後もますます悲観的になり、身体機能の衰えも目立つようになり、また、認知症も進行していった。結果、水分制限ができなくなり、体重の増加や自己抜針行為で、安全で安定した透析が困難となってしまった。夜間せん妄のため、娘の疲労も日々、色濃くなっていった。そのような状況の中で、透析室でのA氏に対する娘の厳しい言動がみられ、スタッフにA氏の愚痴をこぼすことが多くなった。
担当医とスタッフ全員で問題を共有し、夜間せん妄には内服薬が処方され、同時に介護負担を軽減するため、社会資源の活用を促していくことにした。A氏はショートステイ、デイサービスなど利用されるようになり、娘の厳しい言動は見られなくなった。困難となりつつあった透析に関しては、スタッフ全員で頻回に声かけし、A氏の関心がありそうな話題を向けるなど、安全な透析を心がけた。
妻との死別後に娘宅に身を寄せたところから、知らない土地での孤独感、娘一家に対する遠慮、娘に申し訳ないという気持ちに加えて、しだいに不自由になっていく身体が精神的落ち込みにつながっていったのであろうと推察される。
歩行できていたものが車椅子になり、体調管理も自制できなくなるという、心身の変化に適応できない状況にありながらも、通院透析を続けざるを得ないところに高齢透析患者の難しさがある。そうした状況の厳しさにおいて、共有はできないまでも、話を傾聴し、分かち合い、解決策を見出していこうというスタッフの思いを伝えることが、今後、患者と家族の支えになることを願うものである。
(代々木病院・2017年3月号掲載)