東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

住み慣れた家の持つ力

―自宅での看取りの経験から

 2年前に認知症が進行したためグループホーム入所となり、3ヶ月で往診を中止した患者家族より、突然電話で往診の要請があった。
 経過を聴くと、入所後は症状安定していたが右半身麻痺が出現。グループホーム主治医に脳卒中と診断され意識レベルも悪化、グループホームで夜間の看取りはできないと病院への入院を勧められた。
 しかし、本人が家で死にたいと希望していたこともあり、家族は病院搬送を拒み、グループホームでの看取りができなければ、家に連れて帰ることを選択したとのこと。主治医は、かなり危険な状態であること、搬送中に死亡するリスクがあることも説明し、入院の説得にあたったが、家族の思いは変わらなかった。
 努力呼吸状態に陥っている厳しい状況であったが、往診中に連絡をもらった当院医師は、「大丈夫、すぐ行くから」と緊急往診を決め、患者宅で到着を待つことにした。
 要請を受けたのは夕方だったが、訪問看護・介護は業務調整し、迅速に対応してくれた。
 帰宅時は意識もない状態だったが、自宅で過ごし始めてからは気力を回復し、刺激に反応を見せ始め、一時は飲水できるまで回復し、家族に「ありがとう」の言葉もかけたという。
 関係者からは、自宅に戻ってからの一時的気力回復は、本人の思いが意識のない状態でも住み慣れた家の匂いや音を五感で感じ、気力を回復させたのだろうと。家族も大好きだった音楽を流し、元気で笑っていた頃の写真を飾るなど、本人の望む家での生活を支えた。
 科学的ではないにしろ、人は生きて最期を迎えるまで、医療・介護だけでなく、環境の持つ力も大きく影響されていることに気づかされた。
 家族の懸命な介護もあり、苦痛表情もなく自宅に戻ってから17日後、永眠した。
 この症例で私たちは、どのような状況であろうとも本人や家族の思いを汲み取り、安心して地域で住み続けられる在宅療養を支援していかなければと痛感した。
 数日後、家族より「突然の依頼にも関わらず、医療のあるべき姿を凛として示してくれた」と、お礼のお手紙が届いた。
 (健愛クリニック・2016年12月号掲載)