上高田訪問看護ステーションにて
ベッドからの転落をきっかけにほぼ寝たきりになってしまった夫と、元気に生活できるけれど記銘力の低下が著しい妻の二人暮らし。心配している長女すら拒む夫にどうしていいかわからない妻と長女は途方にくれていたそうです。地域包括支援センターからの依頼で、初回訪問をしたときには、夫の体のあちこちに褥創ができ関節の拘縮もありました。電動ベッドの導入も訪看も拒否の状況で、看護師一人では全ての褥創の処置ができないと判断し、事務にも協力してもらい二人体制で毎日訪問しました。
「こんにちは」に対して「誰が来ていいと言った!傷なんかカビが生えてもいいから触るな!」と連日攻防戦が繰り広げられ、そのうち処置が終わると「ありがとう。明日は来なくていいからね」に変化し、3ヶ月たった今は、若かったころの話や仕事の話しなど冗談も交えながら楽しく処置をしています。ヘルパーも入り訪問入浴も受け入れられました。
一方妻は、毎日来る看護師を頼っていいと思ってくれたようで、電動ベッドを導入したとき、夜中に緊急携帯に「ベッドがあがったまま戻らない!主人が苦しいと怒っています。助けて!」。訪問すると、ギャッジアップされて夫は滑り落ちている状態。
大きな事故にはなりませんでしたが、やっぱり二人とも操作が覚えられず電源を抜いて触らないようにしました。「困ったときや不安なときは緊急携帯に電話をすれば看護師が何とかしてくれる」ことは記憶に残っていたので本当によかったと思います。
長女は途方にくれて両親を怒鳴ってしまっていた自分を責めていましたが、看護師の「大丈夫、気持ちはちゃんと届いていますよ」の言葉に涙を流しながら「ありがとう」と言ってもらいました。
ずっと夫婦で人に頼らず生きてきたのでしょう。「助けて」がなかなか言えない、その言葉にできない「助けて」をスタッフ全員がちゃんと受け止められたからこそ、今の信頼関係ができたのだと思います。
(健友会・2016年11月号掲載)