東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

人生振り返る時を過ごせたAさん

 肺がん末期のAさん(70代女性)は知的障害を持ち、独居で様ざまなサービスを拒否し、搬送されたときは毛じらみが湧いてしまう環境で暮らしていました。治療拒否が強く積極的治療はしないと転院してきました。
 看護師が関わると、「うるさいなあ!あっちいけ!」と怒り、看護師を叩いたり物を投げたりしていました。入院翌日に「売店に行きたい」と訴え、車椅子で案内するとお菓子やキリンレモンを買いました。好きなものは数時間で食べきってしまうため、いつでも欲しいときに渡せるよう勤務室にストックしました。
 胸や頭の痛みがあり、痛み止めの頓服は抵抗なく内服することがわかりました。少しでも待たせると「どいつもこいつも口ばっかり!」と怒ります。我慢させないよういろいろ工夫しました。Aさんの想いを優先し、要求があった時はスピーディーな対応を心がけました。
 施設入所の予定で、精神科を受診したところ、典型的な統合失調症の診断がつき、内服を開始すると口調もずいぶん穏やかになり、終末期の診断もあって最期まで看ていく方針となりました。
 会いたい人を尋ねると「お父さんとお母さんに会いたい。謝りたいの」と話してくれました。
 好きな食べ物は、「甘いものなら何でも好き。昔駅の公園でアイスクリームを食べたわ」など、思い出もまじえて話をしてくれました。
 キーパーソンは、疎遠になった義理の姉です。関わりたくないといわれましたが、あきらめず連絡し様子も知らせることで穏やかになったAさんと面会。アイスクリームの差入れをして、「来てよかった」と話してくれました。Aさんも「兄ちゃんに、もう年なんだから体に気を付けて長生きしてくださいと伝えて。お姉さんも気をつけてね」と話していました。
 1週間後、Aさんは苦痛なく旅立ちました。
 天涯孤独となり他人を受け入れなかったAさん。最期に人生を振り返る時を過ごせたことは、私たちの喜びにもなりました。
 (大田病院・2016年7月号掲載)