東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

患者と息子の両方に寄り添って

 あきしま相互病院は医療療養型107床の病院です。2014年4月から在宅医療を始め、現在は80人の患者さんの往診をしています。
 今回は近隣の急性期病院の紹介で、2015年10月から往診を開始した方のお話をしたいと思います。
 70代男性、妻と40代の一人息子の3人家族です。70代男性は、2014年膀胱がんと診断され、数々の治療をしましたが、肺に転移、2015年7月、治療を中止。
 退院前カンファレンスでは、息子の不安が強く、父の病状を理解できずにいることがわかり、在宅は困難と思われました。再度、急性期病院の主治医より本人・息子へがん終末期の病状説明をしました。その上で、本人の自宅退院の思いは強く、日中は認知症のある妻、夜間と土日は息子が介護することとなり退院しました。
 初回往診では、意識はしっかりしており、息切れがあるため在宅酸素を導入しました。毎週、往診と訪問看護で在宅療養を始めました。息子と連絡ノートを作成し、診療や訪問看護の内容がわかるように記載しました。
 しかし、病状が進行する中で「水分量は大丈夫ですか」「点滴は効果があるのですか」「薬は飲ませたほうがよいですか」と仕事が終わり帰宅した息子から、緊急携帯へ相談が入ることも増えました。在宅室では息子の思いを聴く時間を作るようにして、不安を少しでも和らげるよう心がけました。
 12月20日、息子が見守る中で、静かに息を引き取りました。意識があったころ、本人は「入院はしたくない」と言っていましたが、息子は直前まで認知症の母に相談できず、救急搬送すべきか、このまま在宅で看取るのか悩んでいました。「自分の思いや気持ちはどうでもいい。父にとってどうしたらよいのかを考えると答えが出ない」と言われたことが印象的でした。息子にとって介護も死も自分の生活の中にあるのは、初めてのことでした。
 いろいろな世代の生活の中に溶け込む自然な看取りを地域と一緒にこれからも支えていこうと思います。
(あきしま相互病院・2016年2月号掲載)