東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

ハイヒールをあきらめない

 Aさんは転落により頸髄損傷を受傷した20代女性である。入院依頼の時期は受傷後2ヵ月。障害受容もまだされていなかったことから、精神状態を考えると受け入れは難しいのではないか?とも考えられた。しかし、困難に感じるケースでも「来てみないとわからない」といういつもの心強いスタッフの言葉に後押しされ、まずは受けてみよう! という思いで入院日を迎えた。
 Aさんの入院時の希望は、「ハイヒールを履きたい」というものであったが、前医からは病状的に歩行は無理と言われていた。
 リハはしっかり行えたものの、車椅子が自走できるようになると、無断で院外に出て喫煙するなど、院内ルールから逸脱してしまうことがたびたび起こった。共同生活をする上で必要な最低限のルールが守れないままでは入院継続が困難になり、機能回復がこれ以上望めないということにつながる。スタッフは叱ったり励ましたりしながら、関わり続けた。Aさんには煩わしかったかもしれない。しかし、スタッフの関わりに母親や姉や兄のような温かさも感じ取ってくれたのだろう。ルールを守り、漢字を憶え、会った人に気持ちよく挨拶をするなどAさんの生活面にも少しずつ変化が起こり、スタッフとの信頼関係も強くなっていったように感じる。
 とうとう半年後、Aさんは、装具を装着し杖を使い歩くことが可能となった。Aさん自身の努力、半年間もの長い間の入院生活を送ることができる社会性を身につけられたこと、前医の「歩行は無理」という言葉で決め付けず、ハイヒールをあきらめずに一緒にリハビリテーションに取り組んだことも大きいだろう。
 退院が近いある日、「この病院に入ったら大丈夫。本当にいい病院だから。私もこの病院に入院できて本当によかったと思う」と他の患者に話すAさんの姿を見かけた。あの時Aさんの入院を決めていなかったら今頃どうなっていただろう、民医連で働けることに喜びを感じると共に誇りに感じた瞬間であった。
(柳原リハ病院・2015年12月号掲載)