透析治療患者さんにより添って
80代男性のA氏は数年前に慢性腎不全と診断を受け、透析を始めて約2年。隔日で中野共立病院送迎で3時間の透析を行う日々。
徐々に歩行障害も進み、透析を続ける意欲も低下し、妻が亡くなった時期と重なると余計に「透析をやめたい」「透析に行きたくない」と言い出す。そのため、医師の面談、透析スタッフの自宅訪問で本人の意思確認と透析医療の継続の働きかけを行った。
しかし、本人は年明けには(数週間で新年)、透析はやめると固い意思表示。同居の娘さんも、迷いながらも父親のその意思決定に同意した。娘さんからは、透析をやめた後の透析患者の予測される経過を聞いて不安の声が聞かれる。しかし、A氏は言葉通り新年の1月6日の透析を最後に通院をやめた。
当院ではA氏の事例についての倫理委員会を急きょ開催。倫理委員会で論議し、入院での対応やリハビリしながらの入院など、本人へ提案できることを話し合った。
倫理委員会の翌日、透析室の看護師と医師でご自宅に訪問した。訪問の際、A氏のこれまでの歴史、希望をきくことができた。戦争中は戦艦大和の乗組員だった。たくさんの仲間たちが戦死したのに、自分は80年好きなことをして生きてきた。その一方「孫が成長して、嫁に行く姿を見てみたい」や「父親が死んだ年までは生きてみたい」など希望の声も聞くことができた。そして、色々な話をする中で、透析室から透析時間を短縮して、週に3回の透析も2回に減らして再開してみないかと提案し、応じてくれた。
透析再開した2日後に転倒し緊急入院となったが、病状が悪化し、最期は苦痛のないように看取りたいというご家族の意思を尊重し、入院後2週間でお看取りとなった。
A氏との関わりを通して、透析を継続する患者さんの身体的・精神的な負担や苦痛の大きさを目のあたりにした。どのように寄り添っていくことができるのか、これからも一人ひとりの患者さんのために考え、看護を続けていきたい。
(中野共立病院・2015年11月号掲載)