ケアマネやご家族の支えで和らぎを
根津診療所の隣は根津神社、その向かいには日医大病院という場所に立地しています。下町散策のスポットで知られる谷根千(谷中、根津、千駄木)の地域、一方では幹線道路沿いには高層マンションが立ち並ぶ新旧入り混じった街並みが続きます。
私たちの診療所は、2013年に医福連が主催する「高齢者にやさしい診療所」の取り組みにエントリーし、診療所内で(1)正常な老化とは、(2)高齢者とのコミュニケーションなどのワークショップを7回開き学んできました。その中で、高齢者総合評価(a物忘れ、b尿失禁、cうつ、d転倒・移動能力の低下)(以下CAG)についても学んできました。そして、2014年度には200件を超えるCAG評価を行うことで、看護師の患者さんを見る意識や行動が変化し、早期の医療や介護のサービスの介入に結びついてきたのです。
79歳のSさんは化粧品会社を定年退職し、近くのシルバーピアに一人で住んでいます。
いつもスカートをはき、お化粧をして診療所の待合室に座って、凛とした佇まいのSさん。
ある日、そのSさんが、不安な表情で、髪もボサボサにして診療所にやってきました。「保険証がないの」とバックの中を何度もひっくり返して見ています。「自宅に戻って探してみます」と帰宅したSさんを追いかけて、看護師が訪問。保険証を一緒に探しながら、いくつか質問したところ、物や人の名前が出てこない、住所が言えないなどなど。その状態に自分自身も驚き、パニックになっているようでした。その後短期間に、介護保険の申請や地域包括支援センターへの相談、ケアマネの決定、近くに住む弟さん夫婦と情報を共有するなど環境調整をしてきました。朝起きると不安になり、毎日のように診療所にやってきていたSさんですが、サービスが決まり、ケアマネやご家族の支えの中で表情が和らぎ、落ち着きを取り戻しつつあります。
今後も高齢者の一人暮らしや、高齢世帯が増えていきます。住み慣れた町で元気に過ごせるように、ちょっとした変化も見逃さず、いろいろなところと連携して支援していきたいと思います。(根津診療所・2015年5月号掲載)