あきらめずに関わり続けたい
私たちの診療所はコリアンタウンで有名な新大久保の駅から徒歩15分のところにあり、近くには戸山ハイツという大規模団地があり、大病院に囲まれています。在宅管理患者数は約60件。
区の障害福祉課から紹介で訪問したAさんは、私たちが挨拶をしても目も合わせず返答もありませんでした。唯一戻ってきた言葉は「帰れ!」でした。
Aさんは60歳代前半。17歳の時に交通事故で左不全麻痺になり身障は3級。杖や車椅子で仕事をしていましたが定年退職後急激な筋力低下で歩行困難、介護者もなく1年程で寝たきりに。本来の性格と、世間との関係を断つことを希望しているかのような態度。
訪問診療を行っていくうちにAさんが利用しているヘルパー事業所の対応が目につくようになりました。配食のお弁当は常に居間のテーブルに放置、ベッド脇のテーブルには菓子パンとペットボトルが置かれ、ギャッジアップは24時間そのままで、訪問時はいつも体が傾いている状態。オムツは15時間以上交換されずシーツまで汚染。何度も責任者に連絡しましたが、本人の性格や人員不足を言い訳に全く改善がなく、障害福祉課も今の事業所に至るまでには何カ所もの事業所が撤退していった経過があり、しょうがないという。せめてケアマネが欲しいと介護保険開始を福祉課に相談しても、脳梗塞の症状は軽く意識レベルは正常で特定疾患では申請できないと。実質的なキーパーソン不在の中で自分たちの仕事をこなすだけの印象を受けました。
このままではいけないと障害福祉課、ヘルパー事業所とカンファレンスを行い、訪問看護とディサービスを導入、ヘルパーの回数と時間を増やし食事介助も提案し、なんとか意思統一ができたと思われました。しかし改善されたのは、訪問看護師による内服管理と、配食弁当がペースト状になったことだけ。ヘルパーの訪問は増えましたが内容の改善はなく、食事も結局菓子パンとペットボトル。ディサービスも本人が拒否するという理由で話が進みません。思案の挙句、所長の力を借り福祉課へ訴えたところ、ようやく身障の区分変更やディサービスの手続きなどが動き始めました。しかし、ヘルパー事業所に関してはいまだ改善は見られません。
まともな介護環境が整いAさんが人並の生活を取り戻せるまで、いつか心を開き本当の思いが聞けるまでと、あきらめずに関わり続けています。(おおくぼ戸山診療所・2015年3月号掲載)