東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

一緒に外にでてみますか?

 Aさん、66歳男性、進行性核上性麻痺。大型トラックの運転手をしていた2年ほど前、難病と診断された。歩行障害や嚥下障害、呂律が回らなくなり、発症から間もなくうつ病とも診断され閉じこもりぎみに。
 病状が進行していく中、2011年10月、当ステーションの看護師・作業療法士の訪問が始まった。まずは訪問リハビリが入り、住宅改修や言語療法を実施。訪問スタッフに心を開くようになり、拒否的だったデイケアも12年6月に開始した。
 そんな経過の中、私が作業療法士としてAさんに会ったのは、前任者から引き継いだ昨年夏のことだった。初めて会った時、笑顔は見られなかった。リハビリ 中も上手く会話できないため身振り、手振り、筆談でコミュニケーションをとった。Aさんが何を感じ、何を考えているのか推測しながらのリハビリだった。
 そんな関わりの中で、Aさんがとても真面目で一生懸命な性格であることが伝わってきた。それからは、できるだけ体の小さな変化を伝えるように心がけた。
 指の動きの小さな変化、足の筋力が少しついてきたこと、変化がないことは「維持できていることだからすごいことですよ」と伝えた。実際のリハビリでは 「この運動は一人でもベッドの上でできますね」「1日10回続けるだけでも違いますよ」と伝えながら行なった。
 12年9月27日訪問日、今なら外を歩けると思い「今日、一緒に外に出てみますか?」と尋ねると「うん」とうなずいた。自宅である集合住宅の廊下を数 メートル歩くことができた。自分から外に出たのは何年振りかしらと、家族は喜んだ。Aさんも笑っていた。今ではリハビリメニューを自主的に毎日行ってい る。少しずつではあるが前向きな改善が見られている。小さな変化を見逃さず、前向きな言葉かけの積み重ねが大切だと考えている。
 看護師の訪問は病状が安定しており、月1回。進行していく疾患でADLが改善し「外出できた」と喜ばれたのを聞いて、こんな穏やかな時間が長く続くこと を願わずにはいられません。つらくなっていく闘病生活の中でも利用者・家族に寄り添いながら、輝く大切な時を逃さず後押ししていきたい。
(けいひん訪問看護ステーション・2013年3月号掲載)