東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

ろうあ者の舌癌患者に寄り添って

 当院で往診管理をしていた、先天性のろうあ者で舌癌の78歳のAさんが昨年11月に大田病院に入院し、今年の2月3日に永眠されました。
 Aさんは入院中点滴を拒否。コミュニケーションが困難な中、「食べたい」との意思を大田病院の看護師が受け止め、嚥下機能低下にも関わらず、STの介入 で、最後まで食事摂取ができました。舌癌でも、最後にご本人の食べたいという思いを実現した大田病院のチーム医療に心から感謝します。
 Aさんは夫と10年前に死別後、乳がん、胃がんの既往がある中、一人暮らしをされてきた頑張り屋さんで、舌癌発症までは自立した生活をしていました。当 院からAさん宅までは、かなり距離があり開始時は月2回の往診で管理しました。筆談と身振り手振りで一時間以上を要し、Aさんも医師も真剣勝負でした。
 緩和ケアの段階との紹介でしたが、往診を重ねるうちに、「治る?」という言葉が何回も聞かれ、病状について受け止められていないことがわかりました。そ の後、紹介病院に再度治療の有無を確認しましたが、「緩和ケア中心で病院としてはすることはない」との返事でした。
 Aさんの思いを受け止め在宅での生活を支援しようと、毎回往診時に、それまではあまり関わりのなかった家族にも同席をお願いし、状況を共有しました。ほ かに3回にわたって、包括支援センターのケアマネ、訪問看護師、区の障害者担当の方にも同席していただき、共通の視点で支援を行う努力を重ねました。しか し、11月初めに舌の痛みが増強しオキシコンチン服用開始。疼痛コントロールが難しく、家族の強い希望で、ご本人も受け入れ大田病院に入院をお願いしまし た。
 Aさんとの出会いを通し改めて、「診療所の役割は、在宅医療の連携の要であり、意思疎通の困難な患者様であっても、いかに思いにより沿い、あきらめない チーム医療、看護を提供するか、またその思いを入院につなげていくか」を学ばせていただきました。
(京浜診療所・2011年9月号掲載)