東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

こんなにも愛(いと)おしいとは…

 3年前に出会った90代で寝たきりのAさんは、80代の妹さんに介護されながら、木造アパートの2階にひっそりと住まわれていました。
 訪問開始時は、やせ衰えて生気も失っていたAさんでした。しかし、Aさんは座れるかもしれない、座った姿がみたい!そう思ったのは、妹さんの「一人で食べるお鍋は美味しくないわね。お姉さんとお鍋が食べたいわ」の一言がきっかけでした。
 私たちは慎重に、寝たきりから起こす取り組みを始めました。はじめは「寝かせて~」と懇願するAさんでしたが、少しずつ食事が摂れるようになり体力がついてきたのか、背もたれ介助をしながら3分、5分、10分と座位で過ごす時間が延びてきました。
 ある日、「鼻かんで」と無邪気そうに言うAさんに「ご自分でかんでみてください」とそっけない看護師。ぎこちなく片手でティッシュを持ち鼻水をぬぎ取るAさんに「ご自分で捨ててください」と期待をこめて言いました。
 するとゴミ箱に向かって、片手で丸めたティッシュを放り投げるではありませんか。そのティッシュはゴミ箱へは入らず、とっさにキャッチした妹さんの格好 がツボにはまったのか、Aさんは「ハハハ……」と声を出して笑いました。妹さんは「お姉さん笑えるの!?」と喜びと驚きを見せました。
 私たちは、訪問のたびに妹さんが作ったタオルのボールを使って行う二人のキャッチボールをサポートしました。このキャッチボールを境に、座っている時間が長くなってきました。今では、短い時間なら一人で座っていられるようになりました。
 「何で私が面倒みなきゃいけないの? 愛情なんて感じていなかった。でも、憎らしいお姉さんだったけれど、今初めて本当に愛おしいと思えます」
 3年間、日々変わりつつある姉の介護を通し、今まで抱いたことのない深い愛情に気がついた妹さん。死を待つだけだったAさんが、座り、食べ、読み、歌い、笑い、そして心が通う。私たちは、そんな素敵なお二人の中で、心地よい時間を一緒に過ごしています。
(健和会すみれ訪問看護ステーション・2011年4月号掲載)