「自宅へ帰る」望み叶うよう
Hさんは、81歳の女性。肺癌の末期で症状の悪化に伴い入退院を繰り返していました。肺の機能が低下し、呼吸苦などの症状が増悪し、会話や体動時の喘鳴があり酸素や吸入を施行していました。
また、食事や水分量の低下でバランスが崩れ手足の浮腫みが増加、右上腕の腫れや熱感に加え両肩にこぶのようなしこりが手に触れるくらい表面化していました。
症状の悪化に応じ、麻薬の量を増加・変更し疼痛コントロールを図っていきました。そのような中、薬の影響や肺に二酸化炭素がたまり、また高齢ということ から、せん妄が強くなり、夜間入眠できないこともありました。そのようなHさんの状況ではありましたが、ベッド上安静で食事や会話は出来ました。
せん妄状態からのHさんの言動は、時々看護師をも驚かせることもありましたが、Hさんらしさを感じられる言動や動作がありました。Hさんは、家族をとても大切にしており、自宅では次男と一緒に犬や猫をお世話していました。
入院中も家族の中での役割の思いが抜けず、魚が食事にでた時には、食べやすい大きさにほぐした物を猫にあげようとする仕草が見られ、優しい一面がありま した。また、家族の中で過ごしてきたため、「寂しい、怖い」という不安言動や音に対して敏感になっていました。
入室時には、傾聴したり退院の目標が叶うようにモチベーション維持のために、犬や猫の話題を多くし不安の緩和に努めました。自宅へ帰ることがHさんの希 望でもあり、在宅調整のもと何とか今回も退院が叶いました。退院して約2週間後に次男から、「犬や猫に囲まれて自宅で看取ることが出来ました。本当に連れ て帰って良かったです」と報告があり、私たちも一緒に喜びました。
ターミナル期にあるHさんは、身体的には病状が悪化している状態でしたが、待っている人たちがいる自宅に帰るのを楽しみにしていることが生きたいという気持ちを支えていたのだと思います。
Hさんのように住み慣れた家で最期を過ごし家族に見守られるケースは少ないと思いますが、在宅チームと連携をとり、本人、家族を含めた在宅調整を密にすることにより、その人らしい人生をまっとうできる援助ができる事を実感しました。
(芝病院・2009年9月号掲載)