東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

人を思う心に寄り添う

 Kさんは90代女性。ご主人と2人暮らしです。60代でくも膜下出血、80代で多発性脳梗塞をおこし、ほぼ寝たきりの方です。もともと在宅で同年代のご主人が介護していました。今回はイレウスと診断され、入院しました。
 入院中に黒色便があり、胃内視鏡検査では問題なかったのですが、高齢のために大腸ファイバーが行えず、詳しい原因は不明です。
 経口摂取を試みましたが、認知症もあり、食欲・意欲が出ず、嚥下困難のために断念しました。
 胃瘻(PEG)を造るかどうか家族と相談した結果、消化管の問題も考慮して造設せず、高カロリー輸液での栄養管理となりました。
 病状が安定したので、今後の方針についてご主人と姪の方に来ていただき、話し合いを行いました。
 ご主人は、在宅での介護を強く希望されました。姪御さんは、「入院前より介護量が増えている。介護者も高齢である」と在宅に反対し、私たちスタッフも、無理なのではという思いがありました。
 しかし、ご主人の「結婚した時、死ぬまで一緒にいようと約束した」という言葉に、私たちは、日頃個々の人生を考えて看護をしているつもりでも、医療者としてこうあるべきという考えばかりにとらわれていたことに気がつきました。
 患者様一人ひとりには、今までの人生を様々な思いで過ごした過程があり、その人を思う人達の思いも見逃してはいけない大切な看護だと改めて感じました。
 良い看護師として、感情的になってはいけないと思うあまり、大切なことを見逃していたように思いました。
 その後、在宅スタッフを含めた合同カンファレンスを行い、ご主人と退院の準備を一緒に行っていきました。尿道カテーテルを捨てること、オムツ交換、寝返 りのさせ方などを指導し、ほぼ習得することができましたが、不十分なことは、在宅スタッフがフォローすることとなりました。
 点滴のポンプ管理は困難なため、訪問看護師の来る日に交換するよう、2000mlの輸液を2~3日で交換するようにしました。
 ご主人は、高齢で首や腰に痛みがあるにも関わらず、毎日来院し指導を受け、信念を曲げることなく無事退院となりました。在宅へ帰りたいという強い希望に 対し、リスクだけを見ず、限界を決めずに手を尽くせば実現できることを学ばせていただいた症例でした。
 最近、ご主人が病棟に顔を見せてくれ「大丈夫だよ。頑張っているよ」と報告して下さいました。
(大泉生協病院・2009年8月号掲載)