腹臥位療法の新たな可能性
Sさんは、90歳間近の小柄な女性、元々東北地方で一人暮らしをされていた方です。パーキンソン病と認知症が進行したため、都内に住むお子さん家族と同居を始め、往診や老人保健施設などの介護保険サービスを利用し在宅生活をされていました。
しかし、肺炎を起こし経口摂取が困難となり、他施設で胃瘻造設をされ、在宅調整を目的に入院してこられました。覚醒レベルは不良で、時折独語が聞かれ会 話は成立せず、ほぼ寝たきり状態で全身の筋緊張が高くなっていましたが、激しい体動がみられる状況でした。栄養状態は悪く、仙骨部(26×26mm)にポ ケット(7×7mm)を伴った褥瘡(じょくそう)が形成されており、口腔内は呼吸をするのもやっとと思われるくらい、分泌物に覆われていました。
当初、褥瘡への圧迫を取り除くことを目的に1日3回、腹臥位(うつ伏せ)療法に取り組みました。セラピストの訓練も腹臥位にあわせた内容で実施してもら いました。口腔内は、1日3回十分ケアしても、清潔を保てず、舌苔や分泌物があふれるという感じでした。
腹臥位療法を始め2カ月半の現在、いつの間にか口腔内もきれいになっていました。一時的に下痢や筋緊張がとれ、ベッドアップや座位時間の延長ができるよ うになったことにより褥瘡が悪化しましたが、今では褥瘡も縮小し、ベッドサイドに座れるまでになりました。会話が成立する機会も増え、チュッパチャップス (棒付きキャンディー)を口に、新聞を開いているSさんに、腹臥位療法の新たな可能性を教えていただきました。
(柳原リハビリテーション・2009年7月号掲載)