東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

Little Wishes

 「風が心地良いね…」小さな眼を細くして、Kさんは売店の前で夏空を見上げました。「自転車で河原を走るのが楽しみだった。だけど、きっともう乗れないな」
 Kさん(70歳代男性)は、4月に幽門側切除術を受けました。1年前に胃がんが見つかっていたものの治療を拒否。手術した際、既に肝転移がありました。
 術後、自宅での独り暮らしに戻られましたが、7月末に食欲不振、黄疸、浮腫のために再入院されました。
 入院直後の病状説明で、がんに対する治療の手立てはなく、緩和ケアが主になることが、遠方から来院されたご兄妹とご本人に伝えられました。「兄の人生は 苦労ばかり。もう我慢しないで、病院の皆さんに何でも相談して」と妹さんに言われ、Kさんは小さく小さくうなずいていました。
 看護師はKさんの最期の日々が穏やかであるよう、さまざまな働きかけをしました。アロマセラピーもその一つです。病棟の緩和ケア学習グループでは、アロマセラピーの資格を持つ看護師を中心に勉強を進めています。
 主治医の許可を得て、Kさんの好みの香りを確認しながら、浮腫を改善するアロマと、痛みを軽減するアロマによるマッサージを行いました。「グレープフ ルーツの香りと何だか混ぜたのをしてもらったんだ。気持ち良かった」とKさんは嬉しそうでした。
 そして、MSWも看護師もKさんの話をゆっくり伺うよう関わりました。「遠慮の塊」だったKさんが「車いすで売店に行きたい」、「納豆が大好物。病院で 食べられる?」、「ネギトロが食べたい」と、小さな望みを表出されるようになりました。「身体は辛くてたまらない。けれども、皆が話を聞いてくれるのが今 は嬉しい」と涙を浮かべたKさんは、ネギトロを召し上がった翌朝、亡くなりました。
 苦痛緩和の面では反省点も多く残りました。でも、Kさんと向き合い、心を傾けた2週間は私たちの宝物です。
(柳原病院・2008年11月号掲載)