東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

最期の思いを受けとめて

 私はこの春、一般病棟から療養病棟に異動しました。療養病棟は安定期の患者さんが多いですが、癌のターミナルも増えてきています。
 一般病棟にいた頃の私は、患者さんの思いを聞きたいと思いつつも忙しさを理由に、こんなことを聞いて傷つかないだろうか、この後の関係がぎくしゃくしな いだろうかと足踏みしてしまい、精神的なかかわりに自信がもてず、結局思いを知ることなく亡くなられた方がいました。今回積極的にかかわることで、心から 患者さんと向き合えたと感じ、癌患者さんの緩和ケアについて見つめ直すきっかけとなった事例を紹介します。
 Aさん 80歳 肺癌術後再発、骨転移あり 肺癌の告知はされていましたが、再発は未告知。緩和ケアを目的とし3月に当院へ入院しました。4月のお花見 に独歩で参加していましたが次第にADL低下。対麻痺により寝たきりに。いっこうに動かない足を叩きながら「何で動かないのか」と苛立つ日々。症状が進行 し、食道通過障害によりガーゼで包んだ氷片を口にふくんだだけで、むせてパニックに陥ってしまうAさん。「お父さん、傍にいるよ」と手を握り、付き添って いた家族の辛さは計り知れません。
 Aさんは、いつも紳士的な態度で落ち着いており、それまで取り乱したところを見たことがありませんでした。そんなAさんが、感情をあらわにするようになりました。
 ある晩、「目を閉じて休んで」と声をかけると、「目を閉じると死ぬのではないか」「私はどんな死に方をするのか」と言ってきたのです。正直Aさんの口か ら死という言葉が出た時はショックを受けました。その事実から自分はどう向き合って話をしようか一瞬悩みました。
 Aさんとの会話から苦しまないで死にたいという思いが伝わってきました。Aさんに、どんな最期を迎えたいのか率直にたずねました。Aさんは泣きながら死 に対する怖さを語ってくれました。死を目前にしたAさんの心境を傾聴することで一歩、Aさんに近づくことができ、何よりも信頼し心を開いてくれたと感じ、 嬉しく思いました。
 患者さんの苦悩を逃げ腰にならず、きちんと受け止め傾聴することが大切な緩和ケアコミュニケーションであり、寄り添う看護だということを学びました。同 時に、今後の課題として、患者さんの心理を理解する力を身につけていきたい。そのためには患者さんをよく知り、常に患者さんを好きでいられる看護師でいた いと思います。
 そして、残された時間の中で、家族にとって少しでも悔いの残らないよう何ができるか一緒に考え支えることができる看護を目指したいと思います。
(みさと協立病院・2008年8月号掲載)