乳腺外科医師えん罪事件差し戻し審の審理始まる
乳腺外科医師えん罪事件差し戻し審の審理始まる
~短期決戦で無罪を確定させよう~
弁護団 弁護士
(多摩あおば法律事務所) 二上 護
9月18日、東京高裁第8刑事部は、乳腺外科医師えん罪事件、差し戻し審の第1回公判を開廷し、高野主任弁護人が、更新弁論を陳述しました。
2016年5月10日、当該医師が柳原病院にて、全身麻酔で右乳房腫瘍摘出手術をした患者の左胸を舐めたなどとして準強制わいせつ罪で逮捕され、起訴されました。警視庁は大勢の警察官を動員して、極めて乱暴に柳原病院を捜索、差押えをしました。この逮捕起訴は患者の訴えに便乗し、民医連運動を押さえ込もうとする弾圧の側面を有しています。
一審無罪、控訴審逆転有罪、最高裁は2022年2月18日、高裁判決を破棄して東京高裁に差し戻しました。
一審無罪判決は、麻酔、術後せん妄、DNA鑑定の専門家らの証言に基づき、患者は麻酔覚醒後のせん妄状態にあり、その証言の信用性には疑問があるとしました。そして検察側が提出した鑑定の経過を記載したワークシートは、裏付ける証拠に乏しく、鉛筆書きは消され9ケ所修正してありました。DNA定量検査の証明力は慎重な検討が必要、として無罪の言い渡しをしました。
検察側が控訴し、東京高裁第10刑事部は、二人の精神科医の証人尋問を職権で行ったのみで、2020年7月13日、一審の無罪判決を破棄し、当該医師を有罪として懲役2年の実刑判決を言い渡しました。東京高裁は、自分はせん妄や幻覚の専門家ではないと自認する検察側証人の井原裕医師の証言を信頼し、長年にわたってせん妄の研究と臨床に携わってきたこの分野の第一人者たち、小川朝生医師、福家伸夫教授そして大西秀樹教授ら弁護団側証人の証言を否定しました。
最高裁は、井原医師の証言を排斥しました。井原医師の見解は医学的に一般的なものではなく、そのような見解に基づいて、患者がせん妄に伴う幻覚を体験した可能性を否定した高裁の判断は是認できない、一審判決は様々な専門家の証言に基づき、手術内容、麻酔薬投与の状況、術後患者の疼痛の訴え、動静などを総合的に評価したと述べました。
他方で最高裁は、DNA定量検査の結果により、患者の乳首付近に当該医師のDNAが多量に付着していた事実が認められれば、患者の証言の信用性が肯定される余地があり、DNA定量検査は、型判定をするための準備段階の検査であり1回しか実施されず、予め作成しておいた検量線を使って行われており、どの程度の誤差があるか明らかでないとして、DNA定量検査の誤差の程度を審理するために高裁に差し戻しました。
しかし、使用された検量線もDNAの抽出液もすべて廃棄されており、再度の定量検査を実施することは不可能です。高野主任弁護人は、審理の経過を具体的に述べ、定量検査の結果が信頼に値するか、有罪の証拠としてよいかについて、最高裁の言うDNA検査を専門的に扱う科学者達が合意している基準によらなければならないと強調しました。
東京高裁は、10月9日に検察官推薦の京都府立医科大学法医学教室教授池谷博、10月28日に弁護人推薦の東京大学医科学研究所教授真下知士の証人尋問を決定しました。弁護団はこの証人尋問において、DNA定量検査の誤差は非常に大きく当該医師を有罪とできないことを明らかにすることを目指しています。
差し戻し審の審理は短期決戦です。多くの署名、医療界への働きかけ、高裁への要請行動により、世論を喚起し、当初からえん罪であることが明らかな事件の無罪を確定させ、警視庁の弾圧をはね返しましょう。
共同組織拡大強化月間スタート
地域に足を踏み出し6300人を
9月19日から12月末まで3か月余の期間で私たちの医療と介護、運動のパートナーである共同組織の仲間を6300人増やし、まちづくり運動の発展へ多彩な共同組織活動に取り組んでいきます。
9月19日に「拡大月間スタート集会」を開催しました。冒頭、松崎正人共同組織委員長は今年度の方針を提案しました。「高齢化と単身世帯の増加」「相対的貧困率の上昇」で全世代に渡って孤独感が広がっている状況で、共同組織とともに「一職場一アウトリーチ」として地域に足を踏み出し実態をつかむこと。事例や実践を共有し、共同組織と事業所・職場が互いを知り、街を知ることなどが「月間方針」の柱です。
また、今年になって医療機関や介護事業所の倒産が増えている厳しい環境で、各法人の経営を守り、地域の医療と介護を守る活動を共同組織とともに取り組むこと。法人の経営戦略に位置付けて取り組むことが重要であると指摘しました。
その後、11の法人・共同組織から発言があり、6300人の共同組織を増やし、前進に転ずる「月間」とする決意を固め合いました。