処遇改善には程遠く
2024年度報酬改定
日本医療総合研究所 寺尾 正之
処遇改善には程遠く
2024年度報酬改定
日本医療総合研究所 寺尾 正之
今改定の問題点
政府は、診療報酬で人件費等に充てられる「本体」を0・88%引き上げる一方で、薬価等を1%引き下げて、全体では0・12%のマイナス改定とします。介護報酬は1・59%引き上げ、障害福祉サービス等報酬も1・12%引き上げます。いずれも職員の抜本的な処遇改善には程遠い改定率で、この間の物価高騰、人件費の上昇分には全く届いていません。
急性期病床 削減へ誘導
厚労省は、2024年度「診療報酬改定の基本方針」及び「介護報酬改定の主な事項」で医療・介護の複合ニーズを有する高齢者が「治し、支える」医療や個別ニーズに添った介護を地域で受けられようにする「地域包括ケアシステムの深化・推進」を掲げました。あわせて、医療と障害福祉サービスの連携も重要だとしています。
中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」がとりまとめた「これまでの検討結果」の資料編(3)(2023年10月27日)によれば、救急搬送後、地域包括ケア病棟に直接入院した高齢者の特徴については、▽主傷病は誤嚥性肺炎や尿路感染症が多い▽要介護度が高く、医療的に不安定▽医師による診察の頻度・必要性が高い▽看護師による直接の看護提供の頻度・必要性も高い―という傾向があります。在宅の認知症高齢者に熱中症や大動脈解離などが発症したとき、まず搬送されるのが急性期一般病棟です。ケアの質が高い医療を提供する病床を確保することは重要になっています。
他方で、厚労省は1月10日の中医協総会に、救急医療や手術に対応する急性期病棟の評価基準のうち、介助ケア項目の廃止や救急搬送後の入院の評価日数の短縮―などを組み合わせて4パターンを試算した結果を示しました。
影響が最も厳しいパターンの場合、「急性期一般入院料1」の基準を満たす病院の最大2割が基準を満たせなくなります。地域医療構想の必要病床数を実現するため、診療報酬改定により急性期一般入院料1~6から新設する看護配置基準がより低い「地域包括医療病棟入院料」への転換を促す方針です。高齢者の救急患者等へ包括的に対応し、必要かつ十分な医療提供が確保できるのかが課題です。
在宅介護・医療が危ない
また、厚労省は「地域における24時間の在宅医療の提供体制の構築」を目指していますが、在宅医療は訪問介護による生活の支えがあって初めて継続が可能です。
しかし、介護報酬改定では訪問介護の基本報酬について、20分未満の身体介護は1回の報酬を40円引き下げ1630円に、20分以上45分未満の生活援助も1回の報酬を40円下引き下げるなど軒並み引き下げます。訪問介護が2%強、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は4・5%程のマイナス改定です。訪問介護を支える担い手不足が加速し、必要な在宅介護サービスを受けられない「介護難民」が増える可能性があります。
「増加する高齢者急性期医療のニーズ」に対応し、医療と介護両方を必要とする人に対して、必要なサービスが途切れることなく提供できる仕組みが求められます。
新たな地域医療構想の策定
2025年度の医療提供体制の設計図である地域医療構想は、公的医療費の伸びを抑制することを目的として、全体の病床数を削減することを目標としたため、医療現場に混乱を引き起こす事態が生じました。
2022年度の病床機能報告に基づく全国の病床数は119・9万床と、2015年に比べて5・2万床削減されています。各都道府県が策定した地域医療構想における必要病床数の全国の積み上げの合計119・1万床とほぼ一致しています。
ただし、高度急性期・急性期の病床は合わせて69万床(東京都6・1万床)で、2025年の必要病床数の計53・1万床(同4・4万床)と大きく乖離しており、あと15・9万床(同1・7万床)、約23%(同28%)を削減していくことになります。
都道府県が策定する第8次医療計画(2024年度~29年度)とあわせて、病院のみならず「かかりつけ医機能」や在宅医療等を対象に取り込み、外来医療に焦点を当てた新たな地域医療構想として、2040年に向けて「バージョンアップ」を行います。厚労省が2023~24年度の2年間をかけて検討を行い、各都道府県が2025年度に策定し、2026年度から稼働させる計画です。
これに向けて2023年通常国会で医療法等を改定し(1)医療機関がかかりつけ医機能の有無等に関わる報告を都道府県に行う「かかりつけ医機能報告」を2025年4月から開始(2)国民・患者向けに現行の医療情報提供制度を刷新して2024年4月から医療機関の選択に役立つ情報提供を行う(3)かかりつけ医機能を確認した医療機関における慢性疾患の患者等に対する書面交付・説明を努力義務化します(2025年4月から開始)。
医療へのアクセスは人権
地域医療を支えてきた公立・公的・民間の医療機関は、“安心して子どもを生み育てるまちづくり”や“住み慣れた地域で豊かに老いる”など、住民の生活を支える基本インフラです。新興感染症の感染拡大がいつ起きても対応し得るように“医療へのアクセスは人権”の観点から、地域の実情を踏まえた「余力と備え」のある医療体制を整備しておくことが求められます。