東京民医連

ニュース

みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

日本国憲法の平和主義について
戦争は最大の人権侵害
憲法の理想に向け現実変える行動を
いま伝えたいこと 最終回
弁護士 伊藤 真

 昨年開催した第8回平和学校での伊藤真弁護士の講義内容を、これまで3回に分けて連載しました。今回は最終回となります。

 

実力行使は最小限度に限定
 今回は日本国憲法の平和主義について考えてみましょう。戦争は個人の尊厳を否定します。人を人として扱いません。「殺したくない」「死にたくない」という意思は奪われ、例えば731部隊のように人が物として扱われます。戦争は憲法13条の個人の尊厳を奪う最大の人権侵害であり、最悪の環境破壊です。
 対話と協力による共存をめざすのが憲法の平和主義です。憲法9条は1項で「国際紛争を解決する手段」として「戦争を放棄する」としています。しかし、これだけでは自衛戦争はできることになります。ほとんどの戦争は「自衛のため」という言い方をします。そこで2項で一切の戦力を保持しないと定め、自衛戦争もできないとしたのです。憲法とは別に独立主権国家である以上自衛権があり、その自衛権のための実力部隊として自衛隊がある。従来の政府見解はこのように考えていました。自衛権の発動も日本が直接武力攻撃を受け、その侵害を排除するのに話し合いや警告など他に適切な手段がなく、実力行使は最小限度である場合のみに限定されていました。

 

自衛隊を憲法に明記する狙いは
 ところが2014年7月1日、安倍政権が閣議決定で解釈を変更しました。日本が攻撃を受けていなくても、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、日本の自衛隊が戦えると変えたのです。今までは憲法9条があり、集団的自衛権はないとして「アメリカの戦争には出かけられません」と断れたのに、それが一切断れなくなったのです。韓国は集団的自衛権を行使し、ベトナム戦争に引きずり込まれ、約10万人の若者が戦地に駆り出されました。
 さらに今、「敵基地攻撃能力」まで保有すると言っています。これは相手のミサイル発射の前に攻撃するので、先制攻撃です。当然相手からの反撃を招きますから、確実に全面戦争となるでしょう。ここでは国土防衛としての自衛隊では全くありません。自衛隊を憲法に明記することは、アメリカ軍と一緒に戦える自衛隊に正当性を与えることになります。

 

戦争とは人を殺し殺されること
 憲法9条の問題を考えるときには、戦争の実態を知っておかないといけないと思います。島本慈子著「戦争で死ぬということ」には「日本兵がフィリピン人の赤ちゃんを銃剣で串刺しにして殺した」「フィリピン人が生きたまま日本兵の両耳を切り取りそれから殺した」などの史実を示して「戦争そのものが大なり小なり非人間性、残虐性をどこかに求めている」と記述しています。
 潮匡人(元航空自衛官)著「常識としての軍事学」には、「軍隊は何を守るのかというと、その答えは国民の生命・財産ではありません。それらを守るのは警察や消防の仕事であって軍隊の本来の任務ではないのです」と書いてあります。
 人は本来、人を殺せません。だから兵士は人を殺す訓練をして戦場に送り出されます。しかし元の人間に戻る訓練はありません。戦場での経験を思い出し、悪夢に苦しみ、自殺する方もいます。イラク・アフガン戦争では約7000人が戦死しましたが、その後、年間約7000人もの方が自殺しています。戻ってきて自殺する方が圧倒的に多いのが実状です。戦争とは人を殺し殺されることです。そして戦争には必ず「戦争の後」があります。これを忘れてはいけないと思います。

 

9条骨抜きにする自民党改憲案
 今、自民党は憲法に自衛隊を明記し、9条を骨抜きにすることを含む4項目の改憲案を提示し、公明党、日本維新の会、国民民主党がさまざまな形で改憲を主張しています。これら各党を合わせた国会での議席は3分の2を超えています。憲法改正手続きは、各議院の3分の2以上の賛成で改正案を発議し国民に提案します。その後、国民投票を行い、国民の過半数の賛成で成立します。最低投票率の定めがないので、少数の国民が賛成するような国民投票でも憲法が変わってしまいます。また発議から最短2ヶ月で投票日を迎えることになります。たった2ヶ月間で国民がきちんと理解できるのでしょうか。
 また、投票日まで国民投票運動ができます。投票日直前2週間だけはテレビやラジオコマーシャルは禁止ですが、それ以前ならば、どのようなコマーシャルも可能です。意見広告として一切制限がありません。例えば、投票日当日に朝から晩まで著名人を使って「賛成です」とアピールすることもできます。莫大なお金がかかりますが、資金の規制はありません。外国人も運動できるので、アメリカの軍事産業が日本に武器を購入させるためにお金を出すこともできます。諸外国で実施している規制が日本の国民投票法にはないのです。このような状況で憲法改正論議が進んでいます。
 自民党は「自衛隊を明記するだけで何も変わらない」と言います。しかし9条2項の軍事的統制を空文化し、安全保障政策や国民の生活、意識も含めてこの国の形を大きく変えることになります。だからこそ9条を変えてはいけません。今必要なことは、どんな国にしたいのか私たち自身が覚悟を決め、学校や職場、家庭や地域で声をあげること。そして一人ひとりが戦争について歴史から学び、その悲惨さや自分の生活がどう変わってしまうのか想像することが必要です。

 

私たちの行動が未来を変える力
 最後に、3つのことをお伝えして話を終わります。
1、明日の日本は、今日の私たちが創ります。今を変えれば未来を変えることができます。憲法の理想に現実を少しずつ近づけていくことこそ重要です。
2、今を生きる者として、明日への責任を果たし、誇りを持つことです。憲法を知ってしまった者として今できることをしましょう。自立した主体的に生きる市民として行動しましょう。

3、慌てず、焦らず、諦めず、一歩一歩を大切に、Festina Lente (ゆっくりいそげ)の精神で頑張りましょう。

*見出しは編集部