一人ひとりの行動が平和を守り、政治を変える
一人ひとりの行動が平和を守り、政治を変える
2023年がスタートしました。昨年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略は私たちに衝撃を与え、いまだに戦争が続いています。改めて平和について考える一年となりました。2023年こそ世界平和の実現を願い、昨年、核兵器禁止条約締約国会議に多くの若い世代を派遣した「カクワカ広島」共同代表の田中美穂さんと根岸京田東京民医連会長が新春対談しました。
新春対談
東京民医連会長 根岸 京田
核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)共同代表 田中 美穂
司会=編集部
司会 あけましておめでとうございます。さっそくですが、お二人の自己紹介と活動についてお願いします。
平和を守り、社会保障を良くする活動も
根岸 あけましておめでとうございます。東京民医連会長の根岸京田です。普段は台東区の蔵前協立診療所で所長をしています。
民医連の紹介をしますと、多くは1950年代、戦争が終わって生活が大変苦しく、健康保険もなかった時代に、自分たちがかかれる医療機関が欲しいという住民運動がおこり、皆で少しずつお金を出し合って全国各地に小さな診療所ができたことが出発です。ですから、私たちは住民の皆さんとともに、医療や介護を通じて地域の健康を守る活動をしています。ただ医療サービスを提供するだけではなくて、もっと根本の、平和を守り、社会保障をより良くする活動も一緒に行ってきたことが特徴の一つです。
もう一つの特徴は、私たちを支えてくれる地域住民組織(共同組織)の皆さんの活動があり、一緒に医療機関を運営していることです。決して地域から離れることなく、高度専門医療に走るようなことはなく、常に地域にありながら一緒に歩んできたというところでしょうか。
核政策を多くの人に知ってもらう活動
田中 核政策を知りたい広島若者有権者の会(以下、「カクワカ広島」)共同代表の田中美穂と申します。私は広島出身ではなく、核兵器のことなどもあまり考えることなく学生時代を過ごしてしまったのですが、たまたま就職先が広島で2017年に引っ越してきました。その翌年にICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)国際運営委員の川崎哲さんと共通の友人を介して出会ったことをきっかけに核廃絶の運動に興味を持ち、活動を始めてきました。
広島に来て、核廃絶に対する人々の意識が全く違うと感じました。そのなかで「私は何も知らない」「このままでいいのだろうか」というモヤモヤがずっとありました。「私にできることは何かありますか」と川崎さんにお伝えし、ICANのニュースレターを日本語に訳し、多くの日本人に読んでもらう活動から始めました。
その後、川崎さんのおかげで、広島で活躍していた若い人たちと出会い、「カクワカ広島」を立ち上げました。広島選出、または広島にゆかりのある国会議員に直接会って、「なぜ日本の核政策はこういう状況なのか」「なぜ日本は核兵器禁止条約に入らないのか」と尋ねる活動を始めました。
2019年の3月から始めて、直接お会いできたのが12人です。面会を申し込んだ国会議員は18人なので、まだお会いできていない方たちに何とかアプローチをしていこうというのが現在の状況です。面会した結果をSNSやWEBサイトにアップして、もっと多くの人たちに核兵器の問題について自分事として考えてほしいですし、自分も社会を変える一員なのだということを知ってほしいという思いで活動しています。
2022年をふりかえって
複雑な世界情勢のなかでも核廃絶運動の展望が
田中 ロシアのウクライナ侵攻、安倍元総理の襲撃事件もありました。核兵器禁止条約第1回締約国会議(以下、締約国会議)という大変ポジティブな動きもありながら、NPT再検討会議ではあまり良い成果は出せませんでした。いろいろなことが起こって、今でも処理しきれていない部分があると感じています。
世界が危機的な状況にあるにもかかわらず、分断されてしまい、一丸となって動くことができない、国会議員から核共有の話が出るなど、もどかしさがあります。なかなか成果が出ないことで苦しみながら、ここで自分ができることをやり続けて重ねていくことが大事だと思ったりします。
暗いニュースが多かったと感じますが、その中で生まれた新しい出会いやつながりを大切に、今年に生かしていきたいと思います。
根岸 新型コロナがこんなに長引くとは思ってもいなかったですね。コロナとそれに対する政府の方針に振り回されてきたことが一番大きなところでしょうか。
2月のロシアのウクライナ侵攻はすごくショックで、戦争を始めたということではもちろんロシアが悪いけれども、背景にアメリカの動きやNATOの動きもあるので、多面的に考えなければいけないと思います。ただ、プーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせたことが信じられない。安全保障理事国でもあり、核保有国の責任として、核兵器を恫喝に使ってはいけないことが基本的な姿勢だと思いますが、それをかなぐり捨ててしまったことがすごくショックでしたね。
全日本民医連でもICANの川崎さんに講演していただいたことがあって、「ロシアの動きをみてやはり核武装が必要だという流れになるのではないか、核兵器廃絶運動は後退したのではないか」という質問がありましたが、川崎さんの答えは明確で、全く逆だと。こんなことに使われるから核兵器は存在自体が駄目なのだ、運動としては全く落ち込んでいないと、すごくポジティブなお話を聞いて元気をいただきました。
日本政府が核兵器禁止条約の批准に腰を上げられないことに、あまり大した理由はないような気がします。ドイツだってオブザーバー参加しているわけですからね。やはり市民の側の声が大きくならない限りはなかなか進まないのだろうと思います。そういう意味で特に若い人たちが活動に参加することはとても有意義なことだと思います。
ヘルスプロモーションの究極の目的は平和
根岸 民医連は創立当初から平和の問題や核兵器廃絶の問題に取り組んでいるのですが、時代の動きによって盛り上がるときとすごく落ち込んでしまうときがあります。皆に自分のこととして考えていただくきっかけ、何かもうちょっとインパクトがないかなと、常に感じています。
おそらく皆、平和や日々の生活が大事で、平和憲法はありがたいとは思っているのだけれど、日本を守るのは米軍と自衛隊でしょうと、選挙で自民党に入れる人がたくさんいるのだと思います。
そういう人たちが、もっと自分の事として考えられるようなきっかけ、友人にしろ、インフォメーションにしろ、何かあればカクワカ広島の皆さんのように積極的に核廃絶に一歩踏み出せるわけですから、何か我々の側からも提供できないかなと思っています。
私たちはいのちに関わる仕事をしているので、目の前の患者さんや利用者さんたちの健康はもちろん大事ですが、病気って実は個人的な原因だけではなく、社会のありようで起こるんですね。貧困と格差が大きくなると、貧困な方々にはいろんな病気が起こってきます。例えば糖尿病になった場合に血糖値だけ治しても、環境が変わらなければその人自身はよくならないです。
ですから、社会全体を健康にしていかなければいけないのですが、それには制度や社会保障の仕組み、政府の健康政策などいろいろなことがかかわってくるわけです。個人の健康だけではなく社会全体を健康にしていこうというのが、WHOが提唱しているヘルスプロモーションです。
ヘルスプロモーションの究極の目的は平和です。平和でなければ健康もありえないし、戦争は最大の健康阻害要因です。医療や介護に携わる者として社会の環境も含めて健康的にしていこうと思うと、平和に関わらざるを得ない。でも、医療は僕らの領域だけど平和運動も社会保障の運動も僕らの仕事じゃありませんよ、ということが多いので、なかなか広がっていかないのが悩みですけどね。
ヘルスプロモーションに関しては、世界的に少しずつ広がりがあって、国際HPHネットワークというヘルスプロモーションを理念にする医療機関のネットワークが毎年総会を開いています。来年、日本で開催しようと立候補しました。それが今年の一つのトピックかな。ぜひ広島でやりたいと思っています。ヘルスプロモーションの世界のリーダーたちが広島に集まって、社会を健康にすることを考える機会になればよいと思っています。決まれば2024年の秋ごろです。ぜひ広島の現状、平和記念資料館を見ていただきたいですね。
あとは、やはりコロナ対策ですね。日本のやり方が本当に良かったかどうかは、時間がたって歴史が証明するしかないのですが、大阪でも東京でも在宅で医療機関にかかれなくて亡くなった人が何百人と発生しました。大変つらい1年だったと思います。
サーロー節子さんの言葉が「カクワカ広島」立ち上げに
司会 命や健康に携わる仕事をしている私たちにとっては、平和というのは絶対条件だと思いますが、いま防衛費を2倍にして、敵基地攻撃能力を持つ議論がされ、きな臭い方向に向かっています。「おかしいな」と感じたことを行動で示していく必要がありますが、なかなか一歩踏み出せないところがあって、カクワカ広島のみなさんが国会議員と懇談をしたり、フットワーク軽くアクティブに活動していることに驚いています。どのようなきっかけでそうした活動ができているのでしょう。
田中 2018年に広島でサーロー節子さん(被爆者で反核活動家)の講演会に参加しました。サーローさんは「祈っているだけでは何も変わらない、必要なのは一人ひとりの具体的な行動です」とおっしゃった。当時私は、川崎さんと出会って少しずつ活動していたのですが、もっと自分から具体的なアクションをしないと変わらないと突きつけられた思いでした。たまたま参加していた知人たちと食事に行き、盛り上がってその場の勢いでカクワカ広島をつくろうという話になりました。同じ思いを持つ人が集まって、勢いがあれば動けるということを自分自身で実感しました。講演会にみんながいなければ、その後の動きはなかったかもしれないし、タイミングもすごく重要です。
始めるにあたって、政治家に会うということで、周りの目を気にして「やっぱりやめます」という人もいました。政治にアプローチするということは、私たちの暮らしを考えることと同じで、特段それがすごいことではなく、本来私たちがしなければいけないことだと、活動しながら気付いていったところがありますね。特別な人がすることではないと。
もちろん、皆ができるわけではないことはよくわかります。できる人が具体的なアプローチをして、難しい人は、活動している団体を応援することですごく私たちの力になりますし、イベントに参加していただくだけでも、知識や思いが広がり、じわじわと変わっていくのではないかと思います。一気に変化が見たいとも思うのですが、そういうものではないと活動しながら感じているところです。
根岸 サーローさんの講演会に参加したことがきっかけだったのですね。講演会に参加すること自体がかなり行動的だと思います。
自分にできる小さな行動から
田中 サーローさんのように第一線で世界を引っ張ってこられた方からの言葉は、特に若い人たちにとっては希望というか。実際にサーローさんの言葉を聞いて、何かできるかもしれないと、みんなの思いに火がついたということです。
また、2018年にはICANのメンバーが日本に来る機会が多くあり、キャンペーナーたちと直接お話できたこともすごく刺激的でした。若い人たちもシェアしたいと思える格好いいデザインも活動には大事なんだと、カクワカ広島も学んでいます。世界とつながることはモチベーションの一つかもしれないですね。
今メンバーは15人で、ずっとアクティブにやっているのは8人ぐらい。大人数で大きなプロジェクトをやるというよりは、議員との面会にも行ける人が行き、イベントもできる人が企画します。
SNSのフォロワーは年を重ねるごとにどんどん増えています。今年の締約国会議のときにはchange.orgというサイトで緊急署名をして、5日間で2万筆集まりました。
少しずつ注目度は上がっていますし、広島で政治家に向けて核廃絶のアクションをしているのは今のところカクワカ広島だけなので、メディアにも取り上げていただいています。岸田首相も広島出身ですけど、面会はずっと断られています。なんとかこちらを向いてもらえるようにしていきたいです。広島市民としてとても残念に思います。まずは広島の人たちの関心と、世論を盛り上げるのが目標の一つですね。
田中 例えば、講演会やイベントに行くとか、その場で何か変わるわけではないですが、それでもいいと思っています。SNSでシェアする。自分が関心を持ち続ける。そこから新たな出会いにつながればいいと思います。気張らずに、自分にできることをやってもらえたらいいんじゃないかな。
カクワカ広島として時々小中学校で授業をする機会があります。その場では皆「絶対に選挙に行きます」「大人がなぜ行かないのかわからない」と言ってくれます。教育もすごく大事だと思います。広島のことや核兵器のことが知られていない県外でもお話する機会があるのはすごく大事だと思います。
広島と沖縄はつながっている
田中 先月、「沖縄を考える」というイベントでデニー知事とパネルディスカッションでご一緒しました。広島に原爆が投下されて、その後沖縄に核兵器が配備されたなど、広島と沖縄は切っても切れないつながりがある。歴史的な経緯を知っていくと、広島と長崎、沖縄を一緒に考える機会が必要だと思いました。
司会 民医連も辺野古に基地を造らせない活動を重視していて、この20数年、連帯行動に職員が参加しています。民医連の中には沖縄に対して思い入れのある人が多いので、つながっていけたらいいと思います。
2023年にむけて
田中「一人一人が平和をつくる大切なピース」
根岸「人を大事にする政治を」
田中 2023年5月に行われるG7広島サミットにむけて、準備をしている最中です。岸田首相が広島を核廃絶のアピールの場として使うことで終わらせるのではなく、本当に中身のある議論につなげるために広島の人たちの動きがすごく大事になります。核廃絶を遠い先の目標ではなくて、今すぐにでも決断すれば変わるということを見せてほしい。それを訴えていく年にしたいです。
私は、一人ひとりの声や動きが社会を変えることを本当に実感する活動をさせてもらっています。政治にアプローチすることはハードルが高く聞こえるかもしれないのですが、できることの一つとして、皆さんにも知ってほしいと思います。
一人ひとりが平和をつくっている大切なピース、一部なのだと思っていただけたら、核兵器だけでなく身のまわりに存在する様ざまな問題が見えてきて、それが実は個別の問題ではなくつながっていることがわかります。まずは自分が興味のあるテーマとか、「これおかしくない?」と思うことを、少し周りに話してみるとか、ちょっとした行動から社会は少しずつ変わっていくと思います。あきらめない仲間の一人として民医連の皆さんとこれからも一緒に頑張っていけたらいいと思います。
根岸 人を大事にする政治の実現をもっとアピールしたいと思います。軍事費にお金をかけてる場合じゃないわけですよ。コロナの中で少子化が7年くらい早まったといわれています。今の若い人たちにとって結婚して家庭を持つとか、子どもをつくることがどれだけ負担になっているのか、政府の皆さんにはよく考えていただきたい。人を、命を大事にしてほしい。戦争の準備にお金を使うのではなく、人々の暮らしのために使っていただきたい。来年のG7で岸田首相が支持率の一発逆転を狙うとしたら、核兵器禁止条約に署名するしかないと思います。
それから、東京はまだまだ人口が集中していて、街並みがどんどん壊されて大型開発が進んでいます。お金儲け優先でなく、人々が生まれたところでちゃんと暮らせるまちにしてほしいというのが願いです。そのためには医療や介護だけではなく、地域の人々の暮らしやまちづくりも含めて、関心を持って運動していきたいと思っております。
司会 ありがとうございました。