9条のブランドを守って
根岸京田会長のあいさつ
9条のブランドを守って
根岸京田会長のあいさつ
新型コロナウイルス感染症が急速に拡大する中、前回の総会は規模を縮小した形で、しかも開催時期を1か月遅らせて開催されました。
当時の感染者数は東京で1日100人から200人。感染規模からすると今の100分の1という状況ですが、当時は、医療介護に携わる皆さんの緊張感あるいは恐怖感というのは、今よりずっと高かったのではないでしょうか。
第55期はパンデミックとたたかってきた2年間だったと思います。もちろんパンデミックとたたかってきたのは民医連だけではありませんが、いち早く対策会議を設置して、感染対策の経験交流や情報発信を進めてきたこと。職員の安全や健康の維持を第一義的に考えてきたこと。感染者や職員、事業所に対するいわれのない誹謗中傷には敢然と立ち向かってきたこと。自治体との交渉を通じて、現場の窮状を訴え、数々の支援策に繋がるような活動をしてきたこと。人的支援も含めて全国の困っている仲間たちに向けて、積極的に支援に取り組んできたこと。困窮を極める地域に出ていき、相談活動、食糧支援活動も行ってきたことなどに民医連の取り組みの特徴が端的に現れていると思います。
この2年間、職員だけではなく、共同組織の皆さんも本当に頑張ってきたと思います。皆さんの多大な努力に心から敬意を表したいと思います。
もうしばらくコロナ禍は続く状況ですが、私たちの対応能力は、前回総会時より格段に進歩しています。それでも油断がならない相手であることには間違いありません。今まで通りの熱意と慎重さを持って取り組んでいきたいと思います。
パンデミックを通じて、ウイルスには国境はなく、自国だけ安全ということはあり得ないということ。また、困難は社会的に弱い立場にある人たちに非常に強く現れるということ。この新興感染症は気候変動や環境問題が大きく関わっていることなどが認識されました。
世界的にもCOP26やSDGsへの関心の高まり、新型コロナウイルスへの対応をめぐってケア労働やジェンダーに注目が集まりました。国連から各種声明もだされ、ゆっくりですが少しずつ前進してきました。
ところが、世界の流れに逆行し2月24日にロシアによるウクライナ侵略が起こりました。許しがたい行為です。また、この動きに対して、国内で軍備増強や核の共有をする動きがあることには非常に警戒が必要と思います。戦争というのは一旦始まってしまえば悲惨な結果をもたらします。民間人を巻き込まないとか、学校や病院などの民間施設を攻撃しないとか、原発を攻撃しないとか、そういうルールを守りながらの人殺しはあり得ません。日本は島国であって非常に長い海岸線を有しております。国土の3分の2は森林で、狭い平地にほとんどの人口が集中しています。軍事力で守ることはどだい不可能と自覚すべきです。しかも海沿いに54基の原発を作ってしまったこの国を軍事力で守ろうというのはほとんど妄想に近いと思います。
アフガニスタンで亡くなった中村哲先生は、「攻め入らない国の国民であることがどれほど心強いか。アフガニスタンにいると、軍事力があれば我が身を守れるというのが迷信だとわかります」と9・11の後の日本の国会で証言されています。日本国憲法第九条の持つこの平和ブランドというものの力は、日本にいる我々が思う以上に強いものがあるのではないでしょうか。それをすごく実感されていたのだと思います。
日本が戦争しない日々を重ねれば重ねるほど、このブランドが強まっていきます。ぜひ、この平和ブランドというものを、私たちは守っていく必要があると思います。私たちは命を大切にし、守る事業を行っています。軍事力の増強と核共有の動き、さらには日本国憲法の9条では日本は守れないという動きに対して、「そうではないんだ」と、しっかりいえる組織でありたいと思います。特に今年は参議院選挙もあります。我々は反動的な意見に対して確固とした意見を持つべきです。
日本政府はウクライナからの難民を受け入れる方針を明らかにしています。とても大事なことですが同時に、日本国内に滞在する外国人へのこれまでの対応を見直すべきではないでしょうか?入国在留管理局の対応もさることながら、日本政府は技能実習生の問題やコロナで困窮する外国人への支援には非常に冷たかった。ウクライナ難民への支援を通じて、そのようなことに対する改善も求めていきたいと思います。
ウクライナは、「薬剤耐性結核菌の蔓延国」との最近の報道がありました。狭い避難施設に閉じ込められる状況で結核菌が広がらないか心配されています。
もし、ウクライナの人々が日本に避難してくるようなことがあれば、十分な健康管理体制とか、あるいは医療体制の整備が必要です。そのことも同時に求めていきたいと思います。
さて、全日本民医連の総会方針、東京民医連の総会方針にも、「人権と公正」という視点が強調されています。「公正」とは、世界的に医療をはじめ社会システムの質を評価する非常に重要な視点とされています。今までの民医連の方針では「無差別・平等」という言葉が多く使われていましたが、「平等」という言葉は他の価値が入り込めないような非常に厳しい言葉です。「公正」という言葉は、比較的社会や時代の価値判断が盛り込まれている言葉と感じています。また、その社会の倫理規範にも通じます。「公正な社会」、あるいは「公正な医療介護活動」とはどういうものか、今後の2年間を通じて、十分吟味しながら実践していく課題になっていくと思います。
東京民医連の克服すべき課題として医師体制と経営問題があります。医師の獲得にしても経営問題にしても、職員や共同組織の皆さんがこの総会方針を十分理解して、自分のものとして進めていくことが解決につながります。
短時間の総会ではありますけれども、第56期総会方針案をさらに練り上げて、皆さんが自分の問題として取り組める方針にしていきたいと思います。活発な議論をお願い致しまして挨拶とします。