視覚
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1945年8月6日、広島原子爆弾投下30分後から放射性物質を大量に含む重油のような大粒の黒い雨が広範囲で降った。爆心地から遠く離れた地域でも、この雨に直接打たれただけでなく、呼吸や飲食により放射性物質を体内に取り込む内部被曝による健康被害が今も続いている▼広島大学の星正治教授らは2008年からの調査で爆心地から8km離れた「小雨地域」の土からセシウム137を検出。しかし、2012年、厚労省有識者検討会は「降雨域を確定するのは困難」とし、広島県知事・広島市長は被爆者からの被爆者健康手帳の申請を却下。2015年、この処分の取り消しを被爆者が求めた裁判が「黒い雨訴訟」だ。2021年7月、広島高裁は原告勝訴の判決を下し、政府の上告断念により判決が確定。現在、被爆者援護法の指針の改正が検討されている▼新潟大学名誉教授の赤井純次さんは原爆資料館に展示されている「黒い雨」を電子顕微鏡で分析。検出された炭素や他の微量成分(鉄、ケイ素、硫黄等)は「人体も含め、原爆が破壊し尽くし、焼き尽くし、一瞬にして蒸発させたすべてのものの痕跡」であり、「黒い雨」は人新世の「化石」に対応するものと指摘している。このような痕跡を未来の地層中に二度と残さないために、核兵器廃絶にむけて前進していこう。(昌)