東京民医連

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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

“本当は家に帰りたい”
患者の思い支えるチームの実践
柳原リハビリテーション病院

患者さんの言葉を受けとめて

 柳原リハビリテーション病院2階病棟では、多職種連携によるチーム医療の充実に力を入れています。そのなかで患者の「言葉」から思いをくみ取り、実践につなげ、患者の意欲を取り戻した嬉しい事例がありました。
 80代男性のAさんは15歳の時に父親が経営していたメッキ工場を継ぎ、今は妻と長男の3人暮らし。仕事は長男が引き継いでいます。パーキンソン病の既往歴があり、小児麻痺の影響で右下肢マヒがありましたが、家の中では杖歩行ができていました。
 2021年6月、多発性脳塞栓後のリハビリ目的で柳原リハビリテーション病院に転院。リハビリにも意欲的でしたが、途中で薬剤性の肝障害のためパーキンソン病の薬を一時中断しなければならず、ADLが低下してしまいました。また感染対策のため家族と面会ができず、次第に「最近ダメだよ、体が動かない」「トイレも一人でできない、どうしようもない」などネガティブな発言が多くなっていきました。
 Aさんの漏らす言葉を聞いたスタッフたちは「何かできることはないか」と話し合い、川嶋みどり先生の提唱する「熱布バックケア(お湯やレンジで温めた厚手のタオルをビニール袋に入れ、乾いたタオルで覆い腰背部を温める)」を入浴日以外の週5日、忙しい中でも30分間、時間を見つけて実施することにしました。

 

熱布バックケアで意欲向上

 最初は「気持ちがいい」と一言話すだけのAさんでしたが、次第に「今日もよろしく」「おぉー、最高だな。やっぱりこれをやるのとやらないのでは全く違うよ」「本当はさー、早く家に帰りたいんだよなあ、お酒でも一杯やりたいね」と笑顔で話してくれるようになりました。Aさんは口数が少なく、あまり自分の思いを表に出すタイプではありません。熱布バックケアの時間は「自分のために職員がいてくれる」という気持ちが、安心感とリラックス効果につながったのではないでしょうか。職員もAさんの表情や言葉に、より集中して耳を傾けることができました。
 熱布バックケアを3カ月間継続するなかでADLも改善し、Aさん自身が自宅に帰るために何が必要か、目標を明確にもって「次はあれをやりたい」「これをやりたい」と積極的にリハビリに取り組むようになりました。11月中旬に退院するときには、車椅子からの移乗ができるまで回復し、笑顔で自宅に戻られました。

 

患者さん中心に各職種が連携

 熱布バックケアを中心的に担った介護福祉士の石見蓮さん。「正直、入職するときは『病棟の介護職の役割は何だろう。急性期の病院では患者さんに関わる機会が少ないのではないか』ということが一番不安でした。でもこの病院は、患者さんを中心に各職種の連携を進めることを、とても大切にしていて本当によく話し合っています。介護職は生活面で食事や入浴、排泄の介助、看護職は患者さんの問題に対して薬の調整や痛みの処置、セラピストは機能訓練。それぞれの専門性を活かしながら、患者さんの様子で気づいたこと、毎日の生活の中でどういう変化があったか、このやり方が正しいのかそうでないのか、患者さんが自宅で生活できるように、カンファレンス以外でも話し合って自然に共有しています。介護の視点だけでなく看護の視点も大事で、患者さんをケアするうえで同じ医療者なのだと感じています」。

 

看護職、介護職が協力しあう風土

 看護職、介護職が自然に協力しあう風土はどのように作られたのでしょう。病院看護部長の岩崎ひとみさんは言います。「健和会では“手”を用いたケア、心地よいケアを意識して実践しています。コロナで面会もできない、閉塞感のあるなかでもホッとできるケアを提供したいと思います。入退院が激しく多忙ななかで熱布バックケアを続けるのは確かに大変ですが、病棟師長の意識も高く『やる!』と方針を決めたら実行するためにどうするか考えます」「定期的に看護職と介護職が事例を持ち寄って意見交換をしています。昨年から『民医連のめざす看護とその基本となるもの』にそって、参加した師長がコメントするようにしています。内容は難しいですが、介護職からみても大事な視点で、続けることに意味があると思います」。