東京民医連

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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

ポストコロナの時代を見据えて 藤田孝典さんに聞く(下)
資本主義の弊害が露呈、社会保障制度見直す機会を
 “底辺の声を社会に伝え続けてください”

 前回は貧困の実態、国や地方自治体の役割についてお聞きしました。今回はその根本にある問題、今後の社会に求められる視点についてお話しいただきます。
(聞き手・編集部)

 

某タレントの「コロナが収まればかわいい子が風俗で働くようになって楽しいことがある」発言の背景にあるもの
 日本では働けなくなった方たちに対する社会保障が弱いがゆえに、自分で働いて生計を維持しないといけないという圧力が強すぎるのです。カール・マルクスは「労働の窮迫販売」と言っていますが、自分の労働力、身体、尊厳、なんでもいいから他者(お金を持ってる人)に売り渡して生活を維持するということです。中には「家にあるテレビからエアコンからいろいろなものを売りました」という方もいるし、「性を売らないと生活していけません」という方もいる。
 最低賃金よりも安い、法律に触れるような働かせ方、人間の尊厳を奪うような働かせ方が蔓延して、自分の大事にしているものを売り渡しながら生活を維持せざるを得ない状況になっています。本来、「健康で文化的な最低限度の生活」がきちんと保障されていれば、こうしたことは起こらないはずです。社会保障を整備する本筋の議論をするべきだと思います。

 

「ポストコロナの時代」を見据えて思うこと

 「資本主義社会って本当にこのままでいいの?」という根源的な問いが投げかけられています。医療の現場でマスクも防護服も足りない。市場や資本に任せてきたことが、医療福祉にとって本当に正しかったのか、見直す機会にしないといけないと思います。他にも資本主義の弊害がたくさん露呈しています。例えば、非正規労働の拡大。安倍首相は完全失業率が2%台まで下がったと、アベノミクスの成果を誇ってきましたが、ちょっと仕事を失った時にこれだけ大量の生活困窮者が出るということは、労働力を安く搾取する仕組みが社会全体に広がったということです。持続可能な働き方、持続可能な社会になっていないことが証明されました。
 なぜこれだけ困っている人たちが生まれているのか、我々研究者も実践家も一緒に勉強しながら仕組みを変えていかないといけない。資本主義社会や新自由主義に修正をかける機会にしなければならないですね。この間、大局的な意識を持って現場を見ていこうという方たちが増え始めています。「資本論を読みたい」という学生、資本主義社会や新自由主義の仕組みを問い直そうという学生も増え始めています。
 また、正規・非正規に関係なく労働組合を通して自分たちの権利を主張していこうという動きもあります。市場の仕組み、資本主義の矛盾、労働組合の役割といった大きな枠組みに関心を持つ方々が出てきていることに期待しています。
 昔のイメージの共産主義や社会主義ではなく、未来志向型の、皆で助け合って市場の害悪から人々を守り、皆で民主的に議論しながら社会を運営していく、そういう価値観に重きをおく人々が世界各国で増え始めています。
 福祉国家型の社会を目指す動きの一方で、独裁に進む流れもあります。リーマンショックの時もそうだったのですが、経済危機に際してファシズム的な強いリーダーを求めていく方向性と、こういう機会だからこそ多様性を重視して民主的に皆の意見を聞こうという両極に分かれます。分断が激しくなり、差別や偏見が噴出しやすい社会情勢ではないかとみています。人々は危機状況になってくると、何でもいいからこの状況から脱しようと安易な方向性に向かいますから、そこに舵をきらないよう、皆で止めていく必要があると感じています。

 

民医連職員への期待

 反貧困運動や社会保障を要求する運動を私たちとともに取り組んでいる民医連の皆さんには大きな期待をしています。引き続き現場発の政策提言、現場の声にもとづいた調査研究など、連帯・共同して社会の仕組みを変えていきたいと思っています。
 コロナ禍のもとで、苦しい人たちは増えると思います。なぜこうした状況が生まれているのか、医療保険制度は今のままでいいのか、一緒に見直す機会をもっていただけるとうれしく思います。民医連の皆さんがどう動くかによって日本の医療福祉制度は変わらざるを得なくなっています。残念ながら医療は商品化の圧力が強いので、医療におけるアメリカ発の新自由主義改革が日本に参入してこないように「砦」として底辺の人たちの声を社会に伝えていただけるとありがたいと思います。

 

社会の構造を理解しよう

 貧困は、社会の構造から生まれているということが、コロナ危機によって浮かび上がりました。きちんとした教育を受けて専門性を活かして働いている人は、「私は努力して資格をとった。努力しない人たちが悪い」「貯蓄もせずに自堕落な生活をしてきた人が貧困になる」と考えがちです。それ自体が、実は構造的に植え付けられている思想なのです。
 そもそも人間は生まれた時から等しく価値があり、我々医療福祉関係者はそれを保障していく役割を負っています。お金のあるなし、性格の良し悪し、家庭環境、出自、社会的地位など関係なく、必要な人に必要な医療福祉を提供していくのだと、私が言うまでもなく民医連の綱領に書いてある通りです。皆さんがやらないといけないことが改めてコロナ危機で明らかになった、自分たちがやってきたことの正しさを証明されたのだと受け止めて、自信を持って日々の業務にあたっていただけたらと思います。
 ですから、是非コロナ危機を振り返る時間を作ってほしい。ちょっと仕事が無くなったらこれだけ大量に生活に困る人が出るという事は、それだけ社会の構造が悪いということなので、その認識を深めていただく機会を職場で持っていただけたらと思います。
 医療の現場で患者さんの生活背景までとらえたアプローチをしていくためには、社会構造を理解することが大事です。ニュースや新聞報道に注目し、社会に関心を持ち続けてください。どうしても仕事が忙しいと家と職場の行き来になってしまいますよね。社会や経済状況がどうなっているのか、自分の身の回りの人たちがどういう生き方をして苦しんでいるのか、関心をもっていただけたらと思います。
――ありがとうございました。