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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

ポストコロナの時代を見据えて ― 藤田孝典さんに聞く(上)
貧困格差が一気に顕在化
新自由主義による公共サービス削減のなか、被害受ける弱い立場の人たち

 以前から問題だった貧困と格差の広がりが、コロナの問題で一気に顕在化し、さらに深刻度を増しています。いま地域でなにが起こっているのか、ポストコロナの時代を見据えて貧困問題にとりくんでいる藤田孝典さんにお聞きしました。2回シリーズでお伝えします。(聞き手・編集部)

 

貧困の実態~今起きていること

 私は3月から「生存のためのコロナ対策ネットワーク」「反貧困ネットワーク埼玉」などで労働生活相談をずっと続けています。そもそも日本は貧困格差が非常に激しい国で、まともな対策がとられてこなかった。ワーキングプアの増加や高齢者の約30%近くが貧困状態にあり年金制度は機能しているとは言い難い状況。またシングルマザーや女性の貧困は非常に深刻です。飲食、観光、宿泊、小売、事務職で派遣や非正規雇用を広げてきたという政策的な失敗があります。学生がアルバイトを減らされて学費も払えないという相談もあります。社会保障の弱さが子どもや女性、若者、高齢者にまんべんなく襲いかかっているのが今の実態だと見ています。
 水商売や風俗関係からの相談も多く寄せられています。シングルマザーや若い女性が、そもそも仕事が得られない状況のなかで、自分の身体、性を売って働かざるを得ない社会構造があるのですが、コロナによって働く機会や場所が得られないために、低賃金の売春につながってしまっています。元もとあった貧困格差が全世代、全産業に波及していて、中でも一番弱い立場に置かれている人達が被害を受けている状況だと考えています。
 休職した場合に企業が雇用調整助成金を申請すれば休業手当は保障されるのですが、その休業補償がされていないという相談も多いですね。百貨店の小売販売で働いていたシングルマザーの30代派遣社員の「休業手当が出ないと子どもを育てながら生活していけない」という相談、観光客が減ってずっと休業状態にあるお土産屋さんの非正規男性など、支給や申請の交渉をしました。私たちも厚生労働省に対して、雇用調整助成金を使いやすくして休業手当をきちんと出すようにしてほしいと要請を続けてきたところです。

 

国や地方自治体の役割は?

 当初のコロナ対策は、非常に雑というか脆弱で、経済対策については企業の側、経団連や経済同友会の声を聞くことはあるのですが、労働組合側や生活困窮者の支援団体など、生活に困っている人たちの声を聞くことはなく、そのため緊急経済対策も非常に不十分なものになったと考えています。私たちは現場発の政策提言、当事者や支援者の声をきちんと政策に反映させるべきだ、とずっと提言しています。
 例えば雇用調整助成金がほとんど使われていないという実態や、生活福祉資金貸付制度や住居確保給付金という制度はあっても、実際に窓口に行くと緊急では貸し付けてもらえないなど使えない実態があります。まずは現場の声を聞きながら、制度を使いやすいように改変していく作業が今後も必要だと思います。
 2次補正予算の中では雇用調整助成金の拡充や、失業保険の給付期間の延長、休業補償を労働者からも申請できる仕組みも組み込まれ、少しずつ改変されてきていますが、まだまだ各種福祉制度の使い勝手が悪いので、継続的に実態を伝えてくことが大事だと考えています。
 政府が出した方針が現場に行き渡っていないことも大きな問題です。一人10万円の特別定額給付金も住所登録がされていない、銀行口座がないという方(例えばDV被害者やネットカフェ難民など)には給付されない。総務省がいくら「全ての人に10万円きちんと配ります」と言っても、口ばっかりで行き渡らなかったら全く意味がありません。自治体とすり合わせしながら、制度の理念がきちんと貫徹するように配慮してほしいと思います。
 コロナ以前から、新自由主義改革で「合理化」「効率化」の名目で自治体経営をスリム化し、公務員や公共サービスの削減が続いてきました。今回の給付金支給事業では、電通やパソナなど税金の中抜きをしている企業への委託が問題になっていますが、本来はこういった公共サービスは公務員がやるべきものです。これを機会にまずは公務員の数が適正か、公共サービスが充実しているか、緊急事態では人びとの声を聞いてサービスが提供されているか、確認するべきだと思います。興味深いのは10万円給付が始まった時に一番対応が早いのは村とか町だったことです。住民の顔がきちんと見えている、あるいは住民の数に応じて適正に職員が配置されているところは、こういった住民サービスも非常に迅速です。都市部では今の公務員の人数で適正なサービスが行われているのか、考えてみてほしいと思います。

 

生活保護制度の充実を~まず救済する

 コロナ禍で生活保護の申請が急増しています。生活保護は「最後のセーフティーネット」と言われて使い勝手が非常に悪くされています。ネックは親族への扶養照会です。会ったこともないような叔父、叔母、甥や姪に「扶養してもらえないか」という通知が届くことが耐えられない。そして資産調査が厳しくわずかな資産も認められない。制度上の欠陥ですね。私たちは少しくらいの預貯金は認めるとか、親族照会を一時的でもいいから廃止するとか、柔軟な生活保護の運用を厚生労働省に求めています。
 生活保護は、不正受給を極力ゼロまで下げたいという思惑で制度改変されてきていて、相談にきた人たちを助ける対象ではなく疑う対象に変えてしまっています。生活困窮者に対する差別偏見を持たずに、本人の訴えから早急に支給支援し、悪質なケースはその後刑事事件として立件していくなど、まずは救済をする仕組みに変えていくべきだと思います。

 

〈藤田孝典さんのプロフィール〉
 (ふじたたかのり 1982年生まれ)首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。聖学院大学心理福祉学部客員准教授。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。著書に『中高年ひきこもり』(扶桑社2019)『貧困クライシス』(毎日新聞出版 2017)『続・下流老人』『下流老人』(朝日新聞出版 2016・2015)など多数。