東京民医連

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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

民医連の真価発揮するとき
総会での根岸京田会長のあいさつ

 東京民医連第55回定期総会にお集まりの皆さん、こんにちは。会長の根岸です。
 昨年末に突如現れた新型コロナウイルスは瞬く間に世界中に広がり、感染者数は250万人を超え、亡くなられた方は17万5000人に達しています。日本の感染者は韓国を抜いて1万1000人を超え、アジアでは中国に次いで2番目の感染蔓延国となりました。国内の死亡者は280人を超えています。東京民医連内の各院所でも感染対策に多くのマンパワーと資金を費やしていることと思います。本当にお疲れ様です。
 本来であれば1泊2日の日程で、分散会で十分な議論の時間を確保し、親睦を深める交流会もあるはずでしたが、コロナウイルスのパンデミックの影響で今年は参加人数も絞って一部web会議で行うことになりました。東京民医連始まって以来の前代未聞の総会ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
 さて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に深刻な被害をもたらす中で、国内政治は迷走し国民の政治不信はさらに高まっています。これまで憲法に緊急事態条項を付け加える試みなど、危機管理には前のめりになってきた安倍政権ですが、パンデミックという未曾有の国難を前にしてその管理能力のなさを露呈しています。誰も経験したことのない緊急事態では、誰もが満足するような施策は難しいと思いますが、それを差し引いたとしても現在の政府の動きの遅さ、打ち出してくる対策案の不十分さは信じがたいほどです。
 ダイアモンド・プリンセス号の船内感染が早い段階から問題となって十分な準備期間があったはずですが、2020年1月から2月にかけての初動体制は明らかに遅れました。これはオリンピック開催にこだわり、経済活動を優先させた結果でしょう。国民の生命よりも大企業の経済活動や自分のメンツを大事にする安倍政権の性質は現在の感染対策にまで影響していると思います。また、森友・加計問題や桜を見る会の問題で、平気で嘘をつき公文書まで改竄する体質は国民を軽視しているとしか思えず、安倍首相の言葉は国民に訴えかけるものが感じられません。
 感染状況や国民性、社会システムが異なりますが、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、ニューヨーク州のクオモ知事、ニュージーランドのアーダーン首相など世界のリーダーたちの自国民への語りかけとの大きな落差に愕然としてしまいます。「この非常時には首相のもとに国民が一致団結してコロナウイルスに対抗すべきだ」という声も聞かれますが、それはかつて日本が戦争に向かったときの状況と同じです。リーダーシップは重要ですが、同時に民主主義も重視されるべきです。この政権のもとで感染対策を行い、その後の復興を実践していくことに大きな不安を感じます。早い時期での政権交代を望みます。
 今回、COVID-19への対応で公立病院の果たしている役割は大変大きいと思います。民間病院が、パンデミックや大規模災害などマンパワーとコストが莫大にかかる事態に常に備えていることはできません。東京都で進められようとしている都立病院の独立法人化はパンデミックを含む都市災害に対する脆弱性を高めることになります。一定の公的資金を投入しながら、非常事態の時にはその対策の中心となる存在であるべきでしょう。現在の都立病院はあくまで都立病院として存続して欲しいと思います。

 

偏見や差別防ぐ取り組みを
 長引く自粛要請で自営業者やフリーランスの方がたなど、経済的基盤の弱い人たちが急速に困窮を深めています。外出抑制と社会的距離を保つ必要もあって人と人の交わる機会が減り、世帯や個人の社会的孤立も進行しています。コロナウイルスに感染する恐怖感もあり、社会全体のストレスが高まっており、精神的に追い詰められる人たちも増加すると考えられます。不安と恐怖が広がる中では、人びとが自分のこと以外考えにくくなります。人びとの間に他者への思いやりや共感を広げ、感染者や医療従事者への偏見や差別を防ぐ取り組みを官民あげて進めていく必要があります。

 

ウイルスとの戦いは総力戦
 私たち民医連は常に弱い人びとの立場に立って寄り添う医療・介護の実践を行ってきました。不安と恐怖が広がる今こそ、民医連の真価を発揮すべき時です。COVID―19の診断治療の最前線から、感染予防、COVID―19以外の疾患の治療・管理、在宅医療・介護の維持、経済的困窮や社会的孤立の支援、職員や共同組織の皆さんのメンタルサポートなど、このウイルスとの戦いは総力戦です。東京では毎日100名以上の新規患者が発生しており、患者数はピークアウトしておらず、未だ感染拡大期にあると考えられます。この時期にそれぞれの事業所、それぞれの現場でできることすべきことを着実に行っていきましょう。ウイルスは私たちの取り組みの隙を狙って侵入してきます。積極性は必要ですが蛮勇は不要です。制限の多い中ではありますが、綱領の立場を鮮明にし、人権を守り、人びとの命と健康を守るために行動しましょう。

 

改憲への動き警戒し策動阻止を
 さて、COVID―19の猛威は世界にあまねく広がり、雇用への影響はリーマンショックを大きく超え、世界全体で33億人(総労働人口の81%)が影響を受けています。14世紀のペスト、16世紀の天然痘、19世紀のコレラ、20世紀初頭のスペイン風邪などとともに史上最悪のパンデミックの一つになるといわれています。私たちはまだまだ先が見えない不安の中におりますが、止まない雨はなく明けない夜はないように、いずれCOVID―19も終息する時が来るでしょう。そのときのいわば「ポストコロナ社会」のことも見据えていかなければなりません。今回のパンデミックで経済も人びとの生業も大きく傷つきました。被害総額は想像もつきませんが、年間の国家予算を大きく超える規模となりそうです。その傷が癒えるには相当の時間が必要であり、2020年代の前半は新型コロナウイルスのパンデミック対策とその復興に費やされることになりそうです。
 最も警戒すべきことは、COVID―19対策で後手にまわった政権が「新型コロナウイルス感染症への初動が遅れたのは、緊急事態に対応できる強力な人権制限を伴う法体系がなかったためだ」という理屈で改憲の動きを強めることです。今回の政府の迷走ぶりをしっかり記憶し検証して改憲への策動を阻止していきましょう。

 

命の格差に繋がらないよう監視
 今回の長い外出自粛で広がった在宅勤務やテレワークなどの働き方、web会議や電子印鑑・電子署名などのビジネス慣行の変化、ICTを利用した自宅学習などの新たな教育のあり方、食品や物品の通信販売や宅配サービスの増加、医療現場における電話再診やオンライン診療の普及、これらの多くは引き継がれ、コロナ以前の社会には完全には戻らないのではないでしょうか。私たちの働き方も変化を迫られる可能性が高いと思われ、その対応も準備していく必要があります。
 密閉、密着、密接の三密規制が解かれても、バラバラになった個人や世帯の連帯は容易には回復せず、近年の気の合う小グループでのみ集まるという傾向はさらに強まると思われます。グループ間の溝が深まり社会の分断が進むと、ヘイトスピーチなどの差別行為が増加する危険があります。また、世代間格差、経済格差、情報格差が広がり、社会システムから取り残されてしまう人たちが増加することが懸念されます。それらの格差の進行が健康格差、命の格差に繋がらないよう監視を強めていきましょう。

 

息の長い大きな取り組みに
 今総会の時点で、幸にも大規模な自然災害は発生していません。COVID―19の蔓延中に震災や台風による大規模災害が起こり、避難所で感染が広がるというのは想像したくない悪夢です。今回行われているような軽症者をホテルに収容するシステムを大規模災害時にも発動できるようにすべきであり、いざという時避難できる宿泊施設や宿舎を拡充することも必要です。体育館や公民館に雑魚寝という避難所は卒業すべきでしょう。
 COVID―19への対応は息の長い取り組みになります。それは医療・介護の現場だけでなく経営問題、人材育成の問題、共同組織やまちづくりの課題にまたがる大きな課題であり、第55期の最大の課題といってよいでしょう。東京民医連全体の英知と力を結集し、東京の医療と介護を守り、民医連の灯を守り抜きましょう。