東京民医連

東京民医連のご紹介

みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

区役所の基幹業務を大企業に丸投げ 足立区

「足立区政の外部委託を考える会」事務局長(足立区労連議長)大滝 慶司

 

戸籍業務の外部委託「一部撤回」へ区民運動の大きな成果
 足立区は8月19日、戸籍受付窓口の大半を来年4月までに区の直営に戻すとし、戸籍業務の包括的委託を事実上撤回しました。「足立区政の外部委託を考える会」(以下「考える会」)などが対区要請、区民集会、全戸ビラ配布や署名などに取り組んできた大きな成果です。
 足立区は、今年1月から全国に例のない戸籍業務の5割もの大規模な外部委託を実施。「待ち時間半減」「コスト削減」をアピールしていましたが、「5分でできていた手続きに3時間待ち」「受理されていた申請が受け付けてもらえない」などのトラブルが相次ぎ、近藤区長は6月の定例記者会見で「区民を混乱させた」と謝罪。コストも1100万円増加したことも明らかにしました。
 さらに東京法務局は公務員しかできない判断業務=受理決定などを民間事業者が行っていると戸籍法違反を指摘。東京労働局は、民間事業者が区の指示で業務を行っている現状は「偽装請負」だと是正指導を行いました。

 

50兆円規模の公務の市場化
 足立区は自主財源が少ないことを口実に保育園・学校・社会教育施設などあらゆる分野で委託を進めてきましたが、2011年に全国の自治体に呼びかけ「日本公共サービス研究会」を立ち上げ、自治体の基幹業務の外部委託に乗り出しました。
 研究会には内閣府やシステム関連企業も加わり、国・地方・財界が一体となった国家戦略=50兆円規模といわれる公務の市場化=を足立区を実験場として全国に広めていくことを狙いとし、その第一弾が戸籍の外部委託でした。
 住民のプライバシーに深く関わり、公務員にしか認められない判断業務を多く含む戸籍事務は委託が最も難しい業務ですが、ここで大規模な委託ができれば他の業務でも全面的な委託が可能になるとして委託を強行。さらに国保、介護、課税などの委託を進めるとしています。

 

プライバシー侵害と行政水準の低下
 区民の最大の不安はプライバシー問題。戸籍・住民票だけでなく、さらに所得や滞納状況、病歴など重要な情報が民間事業者に委ねられ、個人情報の漏えい・プライバシー侵害の危険性が高まります。
 行政水準の低下も問題です。民間委託では短期間で事業者や従事者が入れ替わり、業務に関する知識・経験を十分高めることができません。役所の窓口では、区職員が区政全体の専門家として他の部署とも連携をとって区民のさまざまな要求に対応していますが、民間事業者はこうした対応はできません。

 

委託反対運動と区民世論の高まり
 しかし、足立区は委託推進の方針を変えていません。来年度は国保の9割、さらに介護、課税、保育所入所などを委託するとし、平成27年度行財政運営方針では「外部化のいっそうの推進」を掲げています。外部委託中止を求める署名は1万1000筆をこえ、区議会では委託に賛成してきた議員から再検討を求める声が上がるなどの変化がうまれています。区民からは「戸籍や税金まで委託したら区役所が区役所でなくなってしまう」などの声が、続々と寄せられています。
 こうした区民世論をさらに広げ、戸籍業務などの外部委託を中止し、住民の生活と権利・プライバシーを守る区政への転換を求め、いっそうの奮闘をする決意です。

 

 

安倍政権の成長戦略 「官業の解放」が背景
 自治体での戸籍業務の民間委託をすすめる背景に、安倍政権がすすめる成長戦略、「官業の解放」という自治体の市場化、アウトソーシングがあります。
 安倍政権発足、法務省は「戸籍業務を民間事業者に委託することが可能な業務の範囲について(通知)」をだし、「事実上の行為又は補助的行為」は民間業務委託が可能との見解を出しました。
 また2012年7月、幹事自治体に足立区をはじめ秋田県横手市、埼玉県草加市・志木市、東京・国分寺市など約150自治体が参加する「日本公共サービス研究会」は、さらなる業務の民間委託をすすめ、足立区は民間委託の実験台として、委託の成果を全国に普及するとしています。