書評 こんな夜更けにバナナかよ
書評 こんな夜更けにバナナかよ
渡辺一史 著 (北海道新聞社 1800円+税)
「北海道みんいれん」新聞の書評で紹介されていたこの本。なんとも風変わりなタイトルに興味を引かれ取り寄せた。
筋ジストロフィーで体の自由はほとんど利かず、気管切開して人工呼吸器を装着してもなお、病院でも施設でもなく、両親とも離れ地域の中で一人の人間として「自立」した生活を営む「シカノ」こと鹿野靖明氏。
そして彼を24時間交代でシフトを組んで介助するボランティアたち。体位交換、排泄、食事の介助から人工呼吸器の痰の除去まで、素人がここまでしていることに驚かされる。
しかしこの本は、障害者とボランティアの交流を描いた単なる「感動モノ」ではない。苦労してボランティアを集め、そのスケジュール調整に頭を痛めながらも、相手にやる気がないと見ると「もう来なくていい、帰れ」と怒鳴りつけるシカノ。「なんだ、せっかく来てやったのに」と腹を立てるボランティア。
はたから見れば「わがまま」ともとられかねないシカノの言動から、著者は疑問の種を見出していく。障害者だから、助けてもらう側だから、多少のことは我慢すべきだなんて、誰が決めたのだろう。
シカノのように重度の障害者は、介助を受けることが生きることそのもの。まさに当たり前のことだが、健常者にはどこかで「助けてやっている」というおごりがあるのではないか。障害者とボランティア(介助者)が本当に対等な人間関係を作り得るのだろうか。
著者はシカノとボランティアの双方に、そして自分自身に率直に問いかけている。「なぜこんな大変なことを」「ボランティアってなんだろう」「障害者が生きていくこと」。そのなかで、それぞれの思いにとどまらず、その人となり、生き方までもが浮き彫りにされている。
本著では医療関係者の登場はごく一部分でしかないが、「在宅医療」というものを違った角度で見つめてみるためにも、ぜひ一読をすすめたい。