東京民医連

東京民医連のご紹介

みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

手を使わず出し入れOK 入れ歯ができた

肉汁ジュワーッ 奥歯でかむ喜び

 「入れ歯ができて驚いたのは、肉のおいしさ。ずっと前歯でかんでいたから、テレビで言う『肉汁がジュワーッと広がる』のを実感したことがなかった。きっと我が家は家計が厳しいから安い肉なのだろうと思っていました。ところが奥歯でかむと、たしかに肉汁が広がって、本当においしい。これだったのかと、うれしかったですね」とT・Sさん。
 19歳のとき、電気工事の仕事の最中に、感電事故で両腕を失いました。「しばらくはそのショックで廃人同様だった」と言いますが、やがて足の指でタイプを打つことを覚え、仕事を持ち、「自分のことは自分で」と、誇り高く生きてきました。

歯みがき指導と歯ブラシの工夫

 しかし歯磨きのように細かい動作は、なかなかうまくいきません。年とともに歯は抜け落ち、入れ歯が必要となりました。
 「最初ね、奥さんに取り外してもらったらどうかと言われた。とんでもない。口の中のことは下の世話と同じ。自分がしっかりしているうちは、絶対嫌ですよ」。Tさんはきっぱり拒みました。
 せめて現状を維持しようと、歯科衛生士からの歯磨き指導が始まりました。足でつかんだ歯ブラシに向かって首を細かく振りますが、すぐに疲れてしまいます。何度も挫折しそうになりながら、朝は上の歯、昼は下の歯、夜は全体を軽く磨く。1日3回に分けて、それでも辛い作業です。足の動かし方や首の振り、歯ブラシの向きを見ながら、歯科技工士が歯ブラシの柄を曲げて、工夫を重ねていきました。
 「うまくなりましたね」と初めて歯科衛生士からほめられたとき、すぐには信じられませんでした。歯医者でほめられるなんて、思ってもみないことだったからです。

障害だけを見てあきらめないで

 相互歯科に通いだす以前から、実は歯科医療に強い関心を持っていました。国分寺市が公募した歯科医療連携推進協議会にすすんで立候補し、「歯は健康の源、予防がなにより大切」と意見を上げる1人でした。その一方、歯科に通うことが大嫌いで、通う歯科医院も転々としていました。
 「まさに開口一番、『汚いねー』と言われ続けてきた。そんなことわかっている、誰にでもプライドがある、傷つきますよ。その一言で、もう来るもんか、とね」。そして「相互歯科で初めて、まともにブラッシング指導を受けました。他はどこも私の外見を見て、無理だろうとあきらめていた。同情や哀れみよりも、われわれ障害者が求めているのは、どうしたらできるかという工夫です。いっしょに考えてくれる仲間です」と。

地域に訴えたいこれが民医連だ

 Tさんと相互歯科のスタッフが力をあわせ、階段を一歩一歩上がるような積み重ねの中で、今では歯磨きが楽しみになりました。足でここまでできるとわかると、次には自力で取り外せる入れ歯もできるのでは、と期待が広がりました。昨年末に型を取り、一月に試適。所長が「これはまだ試験段階だから」と何度も前置きしながら入れてみたところ、まさにドンぴしゃり。違和感もまったくなく、その場で出し入れもできるようになりました。あまりにもうまくいったことに驚き、喜び、みんなで大笑いになりました。
 Tさんは言いました。「この経験・技術を相互歯科の宝として、広く普及してほしい。今、民医連へのひどい攻撃がされています。私の住む国分寺市でも診療所建設を妨害する動きがありますが、私はこれが民医連だと訴えたいのです」。