高等教育無償化プロジェクト FREE
医学生チームに聞く

「コロナ禍が医学生の学びを直撃。今、求められる支援は」

社会や生活に様々な影響を及ぼしている新型コロナウイルス。医学生も例外ではなく、経済的な打撃や臨床実習の中止、医師国家試験に向けての不安など、多くの困難に直面しています。

そんな中、医学生の学びを守るために立ち上がったのが「高等教育無償化プロジェクト FREE 」の医学生チーム。全国の医学生を対象にインターネット調査を実施し、医学生に対するコロナ禍の影響の実態を明らかにするとともに、国や大学に支援を求める緊急提言を行いました。

今、医学生がどんな状況に置かれ、何を必要としているのか。FREE医学生チームのメンバーにお話を伺います。

医学生の実際の声を調査

――今回、皆さんは、新型コロナ感染拡大が学生生活にどう影響を及ぼしているかについて、実態調査を実施されたそうですね。
はい、私たち高等教育無償化プロジェクト FREE 医学生チームでは、「新型コロナ感染拡大の学生生活への影響調査」として、 4月9日からインターネット調査を行い、38の大学、224人の医学生から回答がありました。
――その結果をFREE医学生チームの皆さんが分析して中間報告にまとめられたと伺いました。ではそこからどんなことが見えてきたかについて、伺っていきたいと思います。

コロナ禍による経済被害が学生を直撃している

約半数が家計の収入減に直面

――まず、経済的な影響については、かなり深刻な実態が見えてきたようですが。
そうなんです。家計を支えている方の収入・事業・仕事への影響について、「収入が減った」と答えた学生が 46.9%、「収入がなくなった」と答えた学生が 4.0%。実に約半数の学生が、すでに家計の収入減に直面していることがわかりました。(図1)

家計を支えている方の収入・事業・仕事への自粛の影響

アルバイト収入減は約6割

――コロナによる休業などで、学生のアルバイトにも影響が出ているようですね。
アルバイト収入が「減った」という回答が35.3%、「ゼロになった」という回答が27.2%。約6割の学生がバイト収入減になっています。(図2) バイト料を生活費や学費に使っている学生も多く、この影響は小さくありません。

コロナウイルス感染拡大によるアルバイト収入への影響

学費や生活費にも影響が

――そうなると、学費の支払いや生活が厳しいという学生も多いのでは。
はい。実際、「親の収入減で来年の学費が払えるか心配」「自営業で休業したため、収入が完全にゼロ」といった声や、「対面でのアルバイト、塾講師ができなくなり、収入が減った。学費を出すので精一杯になり、貯金を崩して生活している」といった深刻な状況を訴える声が寄せられています。 特に私立の医学部の学費は平均年間509万円と高額なため、一層厳しくなっています。調査では、休学や退学を検討しているという学生も少なからずいることが明らかになりました。
――それは深刻ですね。

大学での授業、実習に大きな障害が生まれている

オンライン授業にも負担が

――大学がコロナで休校の間、オンライン授業などは行われているのでしょうか。
医学部全体の87.1%で「オンライン授業が行われている」と回答があり、多くの大学で対策を講じていることがわかりました。ただ一方で、約2割の学生が「パソコンや Wi-Fi 環境の整備により経済的負担が増えている」と答えています。こうした面でも学生の負担は重くなっているのではないでしょうか。

実習がほとんどできていない状況も不安

――医学部にはオンラインでできない授業も多いと思いますが。
その通りです。解剖実習をはじめ、医学部は座学では学べないことがたくさんあります。そうした実習が新型コロナの影響でほとんどできない状況が続いている。しかし、今後どのように行っていくか、国としての明確な方針がまだ決められていません。
――それは学生の皆さんも不安ですね。
「実習がどうなるのかわからない。今後の大学のスケジュールがどうなるのかわからず不安」「所属する研究室での実験が中止され、今後の研究の進捗に影響が出るかもしれない」などの声が上がっています。ひとつひとつの回答から、先の見通しが立たないことによる不安な思いが伝わってきました。

高学年の病院実習も中止に

――医学部の実習は通常どのように行われているのでしょうか?
解剖実習や実験、短期間の体験実習などは1年生2年生から入ってきます。また、本来医学生は、高学年になると病院での実習が中心になって、スチューデント・ドクターとして患者さんの問診をとったり、手術を見学したりするんですね。 それが、現在はコロナの影響で病院実習が全国的に中止されています。患者さんと接触して学ぶ機会が極端に少なくなっているんです。

医師としての将来を心配する声も

――医師になるために必要な経験や教育の機会が失われているということですね。
はい。やはりこの状況を心配する学生は多いですね。「院内実習再開のめどが立たず、このまま医師になれるのか不安」といった声が出ています。また、これは学生だけの問題ではなく、現場を知らずに医師になる学生が増えると、将来的に患者さんにも悪影響が及ぶ可能性があります。
――ということは、日本の医療全体に関わる問題とも言えるのではないでしょうか。
そうなんです。ただ、授業や実習の行い方は地域や大学によって違いますし、コロナに対しても各大学それぞれ対応が分かれているのが難しいところですね。 「カリキュラムが国に決められているのに、大学によって対応が異なるのは不合理であり、国として指針を示して欲しい」という声もありました。臨床実習再開のめどが立たない中、今後どのような体制にしていくのか、国全体での方針を求める声が全国的に大きくなっています。

国家試験への影響の不安

国家試験、さらには就活にも影響が

――医師国家試験は本年度も通常通り行われるのでしょうか。
これについても、多くの医学生が不安に思っています。大学の授業や実習ができていない現状にもかかわらず、医師国家試験の実施に関して国としての明確な指針が出されていないんです。 また、医学生は病院説明会や見学へ行って自分が将来働く病院を決めるのですが、今年は相次いでそれらが中止になっています。
――就活にも支障が出ているのですね。
感染拡大防止のために止むを得ないとは言え、就職の機会が不安定になり、6年生を中心に不安が高まっています。 「見学に行こうにも大学から禁止されており行けない」「病院実習が夏休みに実施されると病院説明会に行けなくなり、将来の研修先を探す時間がない」など、思うように就活が進められず戸惑う声が多く寄せられました。 「医療現場が忙しいため、各病院の就活情報が更新されていない」「マッチングの開始が延期されるなどの措置がなく、さらに病院見学ができないため、マッチング登録に支障が出る」など、切迫した声が集まっています。

政府や大学に対する要望

状況に即した柔軟な対応が必要

――今、医学生の皆さんが大学や国に望んでいることを教えてください。
まず、大学に対しては、コロナの状況に即した柔軟な対応を望む声が多いです。「オンライン授業で通常通りのクオリティが担保できるとは思えない。それなのに試験を通常通り行うことは現実的ではない。単位を配布する、レポートにするなど柔軟に対応して欲しい」といった意見です。

国にもしっかりとした方針を示して欲しい

政府に対しては、経済的支援を求める声とともに、国としての方針を策定することと、それを学生に向けて周知徹底して欲しいという声が非常に強いですね。
――大学と国、両方にしっかりとした対応が求められるわけですね。
はい。医学部は各大学個別の試験だけでなく、共用試験(CBTやOSCE)など、全国一律の試験が多いんです。ひとつひとつの試験が進級や卒業に関わりますし、医学部卒業が医師国家試験の受験資格になっているので、国家試験にも影響します。だからこそ、全国の学生に不公平が生じないよう、国が責任をもって方針を定め、その情報を早く提供して欲しいというのが医学生の願いです。
――お話を伺い、医学生の皆さんの置かれている深刻な状況が伝わってきました。
多くの医学生が、医師として将来の医療を支えられるようになることを目指しています。同時にそれは国民全体の願いでもあり、それを担保するのが医学部です。ところが、今回の新型コロナウイルスの影響で、医学教育や学生支援が不十分な状況が生じています。そんな中で学生が十分な知識や技術を備えた医師になるためには、国全体での支援と情報提供が必要です。

国・大学への4つの緊急提言

――FREE医学生チームでは、今回の実態調査をもとに、国や大学に支援を求める緊急提言を行ったそうですね。どんなことを提言されたのでしょうか? 実態調査で見えてきた問題を4つの提言にまとめました。

学生・家計への経済的支援

まず1つ目は、経済的支援に関するものです。 多くの医学生がコロナ禍によって家計やアルバイトの収入減に見舞われ、学費や生活費の負担から学生生活の継続さえ危ぶまれる状況が生まれています。そこで、国公私立問わず一律に学生と家計への経済支援を求めています。さらに将来的には、家庭の経済状況にかかわらず誰でも医学部で学べるよう、学費無償化を求めていきます。
――学生生活を継続するために、まずは経済的な支援が必要だと。

試験や実習に関する明確な方針を

はい。2つ目は、大学の授業や実習が十分に行われるよう質の担保を求めるとともに、定期試験や共用試験への配慮を求めるものです。 今回の調査では、オンライン授業のための環境整備など、学生に新たな費用負担が生じていることがわかりました。こうした負担増によって学業に支障をきたすことのないよう、費用の補填を求めています。
また、学生の回答で特に目立ったのが、臨床実習や試験がこれからどのように行われるのか、見通しが立たないことによる不安の声です。これについては大学が学生の意見を聞き取った上で、明確な方針を示していただきたいです。共用試験については、地域や大学による不公平が出ないよう、全国の医学生が十分な知識や技能を得た上で臨めるような配慮を求めています。
――医学生の不安を払拭する一刻も早い対応が待たれますね。

国や大学による感染防止対策も必要

本当にそう思います。そして3つ目は、感染防止対策についてです。 緊急事態宣言が解かれ、今後は感染状況に応じて授業や実習、試験などが徐々に再開されていきます。その際、国が方針を策定した上で十分な感染防止対策を講じることはもちろん、マスクやフェイスシールドなどの感染防護具にかかる費用を学生の自己負担ではなく、国や大学が負担することを求めています。
――国内での感染リスクが続く中、継続的な対策が必要ですね。
はい。実際に、感染防御具が足りなくて実習に入れないというところもあると聞いています。医学生の受け入れや実習を守るという意味でも、ぜひ必要なものが医療機関に行き届くよう、きちんと対策をとっていただきたいです。

国家試験や研修病院選びに関する情報提供を

4つ目は、国家試験や研修病院選びに関するものです。 国家試験への影響を心配する声や、病院見学の機会が失われて研修病院選びに苦慮する声はまさに切実です。各大学の対応だけでは解決しきれない問題なので、国が早急に方針を示し、学生に十分な情報提供をしていただくことを求めています。
――医師を志す学生にとって、どれも重要な提言だと思います。こうした調査や働きかけは今後も続けていかれるのでしょうか。
はい。新型コロナウイルスの感染拡大に関しては、まだまだ完全な終息が見通せず、医学生の状況や不安の内容も変化していくと思います。FREEとしても、調査の項目を適宜増やすなどしながら、今後も調査を続けていきたいと考えています。

日本の医療の将来のためにも

――最後に一般の方に向けて伝えたいことはありますか?
医学生の学びは、将来の日本の医療につながっています。新型コロナウイルスの影響によって困難な状況に置かれている医学生の現状や支援の必要性について、より多くの方に知っていただければうれしいです。
――今後の活動を応援しています。ありがとうございました。

インタビューは2020年6月に行いました

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