東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

「家族のつらさも見ないとね」

 ある朝の当ステーションでの申し送り。うつ病の利用者について報告する看護師Bのひときわ輝く表情が印象的だ。
 「最近、Aさんから話しかけてきたり、夫も必ず入ってきて、冗談を言い合ったりするようになったのよ」
 Aさんは60代女性。夫と2人暮らしで子どもはいない。夫は妻の病気を機に職人をやめて、家事をせざるを得なくなった。1年半前のAさんは常に動悸があり、3食を口にするのが精いっぱい。居間の隅に座っているか、横になっているかの毎日で、夫はそんなAさんを横目に「なかなか良くならない」と業を煮やしていた。
 その関わりの中心にいたBは、「初めは、職人気質の夫がどれだけサポートしてくれるか心配だったわ。『こんなに薬を飲んでいるのに全然変わらない』って。いろいろ話すうちに、夫が彼女の病気にマイナスに働いているかもって思ったの」と。
 Bは夫へのアプローチを考え、庭仕事をほめ、家事の労をねぎらい、「Aさんは自身のことはやれている。それは素晴らしいこと。薬も短期間に効くものではない。長い目で見て」と、文献を用いて説明した。
 「すぐには治らないのか?」との夫の言葉。よくよく聞けば、夫が主治医とまったく話をしていないことが分かった。「男たるもの女房に付き添うなんて」という意地が、夫を疾患理解から遠ざけていた。Bは医師と連携し、夫へAさんの受診時に診察室に同席することを勧めた。その後、夫は診察室に入るようになり「おれは一つ年下で、こいつについていくはずだった。こんな人生のはずじゃなかったのにな」と笑顔で話すようになった。
 「夫婦(めおと)ってそんなもんなんじゃないですか」と応えるB。熱い心を持つ演歌好きなBならではのフレーズ。
 Bは「家族もつらいの。家族も見ないとね」と結ぶ。Bには、Aさんの好きな五木ひろしの歌を一緒に歌う計画がある。その実現は、そう遠くない将来だろう。
(たんぽぽ訪問看護ステーション・2013年9月号掲載)