東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

家族の気持ちに寄り添って

 「主人は『終わりにしてくれ』って言っているのが、私にはよく分かります。脳梗塞で倒れて13年間、いつも笑顔で楽しくやってきました。家族みんなでも よく話し合いましたが、点滴も酸素ももうやめたいと思います。先生に申し上げていただけますか?」―訪問看護を始めて2日目、奥様からの言葉でした。
 主治医と連絡をとり「ご家族のご意向に沿うかたちにしましょう」と、点滴を外し、その後往診で酸素も外しました。
 舌根沈下し、頻繁に吸引が必要で目が離せない状態でしたが、酸素・肩枕を外すと、むしろ呼吸はおだやかになりました。その2日後、奥様と、5人の子どもたちとそれぞれの家族、総勢約20人が見守る中、穏やかに旅立たれました。
 13年間、奥様がほぼ一人で介護され、お看取りも一人でする決意だったようです。急激な病状の変化で寝ずの日々が続き、奥様も倒れる寸前だったようです。往診主治医が説得し、訪問看護が開始となりました。
 長年介護してきたお母さんの意向にそって……と覚悟していたご家族でしたが、苦しそうにしているお父さんの姿に、ご家族それぞれの思いが交錯していたようです。
 今の状態を共有し、できるだけ辛くなく過ごせるようお手伝いさせていただく中で、どうお見送りするのか、みなさんの気持ちが一つになっていかれたようでした。
 自宅葬儀の準備、旅支度をご家族みなさんとさせていただきました。子どもたちを何より大事にするお父さんだったそうです。短いかかわりでしたが、印象深いお看取りでした。
 在宅看取りに関わる中で、共通して感じることがあります。長年介護され、覚悟されているご家族でも、死が目前に迫ると戸惑いがあることです。
 そこで、専門家である私たちの役割は、死の現実を伝え、ご家族の揺れる気持ちに寄り添い、共有していくことです。そして、ご本人は、看取ってくれるご家族に受け入れる時間をきちんと下さることに、感動を覚えます。
(経堂すずらん訪問看護ステーション・2012年8月号掲載)